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七.
「マリノ、遅いな」
旧友との思わぬ再会に動転してしまった僕は、気を落ち着かせようと釣りを再開した。
「大学のツレって言ってたけど、何大なの?」
少し離れて立つ城崎も、同様に毛鉤を投じる。
「木矢戸だよ。
僕は理工学部で、マリノは法学部」
「へぇ、あんな感じで法学部って、人ってわかんないもんだねぇ。
っていうか……木矢戸ならあたしも受験したなぁ」
「え?そうなの?」
城崎の竿に当たりがきた。
城崎はすっかり慣れた手付きで、釣り上げたイワナを針から外し腰のビクへと滑り込ませる。
「うん、いったん理学療法に行こうと思って。
あはは、もしかしたら受験会場で出会ってたかも知れないよね。
ただあたしは仕事が急に忙しくなってきちゃって、ちょっと四年は通えないかなぁってことで、受かったけどやめて、結局家に近い服飾系の専門学校にしたんだ」
川の対岸、岩場の影で大きなのが一匹跳ねた。
「もしかして美華専?」
その岩場に向かって毛鉤を投じる。
「そうそう!
将来自分のファッションブランドとか持ちたい芸能人はけっこう出てるんだよね」
「ふぅーん。
それでまだ城崎は古根に住んでるの?」
「一応都心までギリ通える距離だからね。
古根、好きだし」
「懐かしいなぁ。
僕は中学に入ったタイミングで二屋尾に引っ越したから、古根を出てからもう七年半か」
ぐっと手応えを感じ、竿をしゃくって合わせた。
「あ、そうだったんだね。
そっか、中学の時にはもう古根にいなかったんだ」
そこで城崎は、一瞬、暗い顔をうつむいて隠した。
「ん?どうかした?」
そんな城崎の様子に気を取られ目を離した隙に、さっきまで折れそうなぐらいにしなっていた竿が急激に軽くなり、たるんだ糸が流されて城崎の糸へと絡み付いていった。
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