10人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
「それを無職と云うんだけどな。俺の場合は、自覚があるから。こういうことをするのは自覚がない暇人だよ。自分では精一杯なつもりの奴」
「ああ、いるよねえ、そういう人」
絢は相槌を打ちながらも、もっと構ってほしいという雰囲気を醸し出してくる。応じてやらないと機嫌が悪くなるので、俺も事件について調べるのはやめにした。
俺には関係ないし、どうでもいいと思っていた。
2
朝。化粧を終えた絢が、ベッドで寝ている俺のもとまでやって来た。
「どお? ツヤ感強めで、いつもより色っぽくない?」
「分からんけど、まあ可愛いよ」
きゃーと嬉しそうな声を上げて、俺の頭をぎゅうと抱き締める。
「ユウくんのカノジョには、絢しかいないよ。絢は世界一の女の子」
お決まりの台詞を云ってキスまでしてから、彼女は大学へと出かけて行った。
俺はいつもどおり、本を読んだり携帯で動画を観たりしていると昼になる。それから夕方まで眠るのだが、今日は二時過ぎにインターホンで起こされた。無視しても二度、三度と繰り返し鳴るのでベッドから下りた。
モニターまで行くと、映っているのは知らない女子だ。通話ボタンを押して「なに?」と問う。荒い映像でも相手が笑ったと分かる。
『正念坂ユウさんだね? 私は姫乃有紀暮と云う。知っているかな?』
「知らないが……姫乃と云ったか?」
『そう、姫乃由莉園の妹だよ。話がしたい。入れてもらえるかい?』
俺はエントランスを開錠する。部屋の扉を開けて待っていると、やがてエレベーターホールから地味な風貌の女子高生が現れて、大股歩きでこちらに向かってきた。
野暮ったい黒髪ロングに、黒ぶち眼鏡。制服のブラウスは第一ボタンまで留めてリボンを付けているし、スカート丈も膝まであって、黒いハイソックスを履いている。
「やあ、はじめまして。姉が世話になったみたいだね」
「妹がいるなんて聞いてなかった」
「そうかい。私は貴方のことを姉から聞いていたよ」
やけに馴れ馴れしいが、まあ構わずに部屋に入れる。
「美濃和高校の制服だな。いま何年だ」
「二年生だよ」
俺は同校を二年の夏ごろに退学となった。こいつの入学はその翌年ということになる。
最初のコメントを投稿しよう!