第50話

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第50話

 マクギャリー家の野良猫集会に半強制参加させられた霧島と京哉が病院に戻ったのは、二十二時を過ぎてからだった。お蔭で看護師長にどやされ二人して謝り倒すハメなった。  特別室に退散すると交代でシャワーを浴び、着替えると同時に夕食が届いた。ジョセの家では軽食に留めていたので、メニューに代わり映えしない病院食も有難く頂く。  クラッカーをスープで流し込んだ京哉は溜息に言葉を乗せた。 「でも『お付き合い』どころか、いきなり『結婚』なんて吃驚ですよ」 「それも『OK』ときたもんだ。夫婦像が予測できんな」 「ユーリンに振り回されてキャラハンは結構大人になりそうですけどね」 「酒も減らせたらいいんだが。しかし、あの跳ねっ返りは多少大人しくなるだろう」 「案外、大事にされそうではありますよね」 「大事にせんと、アレは皆に殺されるぞ」 「ああ、それはそうかも」  ジョセを始め、皆から袋叩きにされるのは必至と思われた。 「それにしても危ない賭けだったな」 「そうですよ、砂漠を知ってるジョセまで調子に乗ってあんな計画立てて」 「勝算あり、だったのだろう。おそらく見つけておいて連絡だ」 「酷いなあ、命が懸かってるのに。……あ、メールだ」 「私にも来たぞ。一ノ瀬本部長だな。【任務完遂を祝す、帰還せよ】か」 「明日には飛行機にも乗れるかなあ?」  訊かれても分からない霧島は、だが京哉を見返して微笑む。 「『激しい運動はするな』だったのに、あんなに走らせてしまったことだしな」 「それを言うなら忍さんもですよ。僕に沢山、血を分けてくれて貧血なのに」 「ふむ。貧血二人、そう焦って帰ることもあるまい。砂漠の休暇も悪くないだろう」 「でもあんまり留守にすると小田切副隊長が関係各所からの督促メールを溜め込んで、戻ったら地獄のような報告書類の山かも知れませんよ?」 「着いた日を入れて既に五日が経過しているからな、もう二桁の大台かも知れん」 「五日ですか。何だかあっという間ですよね」  先に食べ終えた霧島が立ってコーヒーを淹れた。 「だが京哉お前、戻っても暫くはショルダーを着けられないだろう?」 「武器庫にヒップホルスタがあったからあれで我慢しますよ。ごちそうさまでした」  トレイを出し入れ口に返し京哉にもコーヒーを淹れてやる。だが京哉は妙にそわそわし落ち着かない。霧島は知らんふりをするのも可哀相になって声を掛けてやった。 「どうせ誰にもバレないんだ、煙草の二、三本くらい構わん」  途端に京哉の顔がパッと明るくなったのには霧島も苦笑いだ。幸い天井にはスプリンクラーもない。吸い殻パック片手に隠れ煙草を始めた京哉に霧島も手を差し出す。 「共犯(レツ)になってやる、一本寄越せ」  二人で紫煙を立ち上らせていると、ふいに京哉が訊いた。 「僕の喫煙、忍さんは嫌じゃないんですか?」 「今更何を言っている。お前は出来の良すぎる妻だ、ひとつやふたつ瑕疵があって構わん。大体、お前がそれを言うなら私の飲酒をお前はどう思っているんだ?」 「躰のことを考えたら飲みすぎは気になりますけれどもね」 「本気でお前が嫌がるなら……半分にするんだが」 「そんな、キャラハンみたいなことを。まあ、お酒にも溺れる訳じゃなし、博打に耽る訳でもなし、理想の夫ですよね。それこそ何処にも瑕疵がなくて心配になるくらいですよ」  そんな雑談をしているともう消灯だ。二人はカップを洗って寝ることにする。  ペラペラのガウンを着た京哉は先に窓際のベッドに横になって毛布を捲ると、寝間着代わりに同じく患者用ガウンを身に着けた霧島に自分の隣をつついて見せた。 「怪我しているんだ、広い場所で寝た方がいいぞ」 「忍さんの腕枕は僕の右側だからいいじゃないですか」  見上げてくる黒い瞳に、あっさり霧島は折れる。 「この狭いベッドで一緒に寝て、あとで痛いとか言い出すなよ」  蛍光灯の明かりを常夜灯にすると、霧島は京哉の右側に遠慮がちに横になった。毛布を被せて左腕を差し出すと京哉は嬉しそうに頭を落とす。欠伸を噛み殺して霧島は目を瞑った。だが直後から毛布の下で、その引き締まった腹を京哉の手が這いだす。 「京哉……左手を使うな」 「これくらいは大丈夫ですよ」  胸に這い上った手を霧島が掴んで押し戻した。 「そういう問題ではない。『激しい運動はするな』だ」 「してくれないんですか? ……ねえ、欲しいよ」 「私だって欲しい。だがお前、背中も、腰だって打ってるだろうが。我慢しろ」 「もう痛くないですから、本当に……ねえ」  覆い被さるようにキスをされ、京哉の髪が頬を撫でた瞬間、霧島は胸に突き刺さるような欲望を感じて細い躰を組み敷いていた。捩る勢いでキスを返し、口内を舐め回し舌を絡ませる。幾度も唾液を要求しては吸い上げ、息もつけないほど蹂躙してから解放した。 「んんっ……んっ、ぅうん……あっ、はあっ!」 「お前は動くな。激しい運動は私だけだ。痛かったら素直に言え、分かったな?」
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