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第52話
翌日の午前中、診察にやってきた医師に退院・国際便搭乗の伺いを立てると、医師は院長のマクフォール一佐に伺いを立てた。
すっ飛んできたマクフォール一佐は慎重に京哉を診察したのち、日本でも検査を受けることを条件に退院を許可した。
ベッドに寝転んでビタミン剤の点滴を受けながら京哉は笑う。
「厄介払いができて嬉しそうでしたよね、マクフォール一佐」
「胆の小さいタイプのようだが、まあ、世話をかけたな」
「クリフのことも頼んだし、きっとよく診てくれますよ」
「あのクリフは起きたらユーリン婚約に驚くだろうな。おっ、点滴も終わったぞ」
丁度看護師がやってきて処置をし、念のために痛み止めの薬を置いていった。
「あー、晴れて無罪放免だー」
「帰ったら真っ先に検査だ。可能な限り傷痕も消して貰う。クソ親父に借りは作りたくないが、こればかりは仕方ない。お前の躰に傷跡など許せん。分かっているな?」
「はいはい、自分だって傷痕だらけのクセに」
「お前は別だ。荷物はまとめるから少し休んでいろ」
「ったく過保護ですってば」
「たった三日前だぞ、撃たれたのは。座っていろ」
これ以上の抵抗は無駄、ショルダーバッグを開ける霧島をベッドに腰掛けて見守った。面倒臭がりだが自発的に始めれば几帳面なので、衣服なども丁寧に畳んでしまっている。
片付いてしまうと京哉は霧島に手伝って貰って準備だ。スペアマガジン入りベルトパウチを着け、銃をインサイドパンツ、腹の真ん中よりもやや左に挿し込んで上着の身頃で隠す。腰に水筒とナイフを下げて布を肩から巻けば出来上がりである。
「十一時過ぎか。学校よりも野良猫集会ですかね?」
霧島がジョセに携帯連絡してみるとやはりマクギャリー家だった。
「飯時に訪ねるのも何だが、仕方ないな。行くか」
外は相変わらずの暑さだったが二人も砂漠気候に慣れたのか歩いている間も汗だくになることはなかった。迷路のような小径の道順も覚え迷うことなく目的地に着く。
ジョセたちのフラットの階段を上るとドアを開ける前に中の喧噪が聞こえてくる。今日もまた大人数らしい。片言英語で声を掛けつつ京哉がドアノックした。
「こんにちは、お邪魔しまーす」
ドアを引き開けるとジョセが顔を出す。
「はあい、いらっしゃい。あら、もしかして退院?」
「そうです。さっき出てきたんですけど……いっぱいみたいですね」
「ええ、勢揃いよ。むさくるしいけど、まあ、上がりなさいよ」
キッチンにはユーリンの他、アリシアとリサも所狭しと立っていて、これは本当に勢揃いらしいが昨夜も同じ状態だったので驚かない。
リビングにはやはり床が見えないくらいに大量のデカい野良猫が居座っていた。
二人を見たハミッシュが声を掛ける。
「その格好、退院で日本に帰るのか?」
「さっき許可が下りてな。世話になったな、ハミッシュ」
「いや、霧島。我々は何の世話もしていない。こちらこそ本当に世話になった。礼をしてもし足りない。クーデターから徹底抗戦、そして銃を置いて戦い方をシフトすること、更には今回の急進派とダーマーの件だ。何もかもあんたたちのお蔭で感謝している。本音を言えば自分たちの力では何ひとつ成せないのが悔しくて堪らない」
「感謝も悔しさも原動力になり得る。そう悪いものではない。だが助けの手というものは差し伸べて貰えるうちに掴んでおくものだ。見向きもされなくなる前にな。そうすればいつかは自分たちも誰かに助けの手を差し伸べられる日が来る」
「なるほど。霧島、俺はあんたを副大統領に指名したくなった」
翻訳されなくても概要を掴んだ京哉が霧島の腕に抱きついた。
「だめですよ、忍さんはこれでも日本では有名人だし取られちゃったら僕が困るし」
「冗談だからそう怒るな、鳴海」
「ならいいですけど。でも帰る前にみんなの顔を見られて良かったですね、忍さん」
そこにおたまを持ったジョセが顔を覗かせる。
「退院祝いなんてできないけど、お昼くらい付き合いなさいよ」
「お皿持ってきてーっ!」
ユーリンの声がキッチンで響き野良猫が食器を手に並んだ。可愛らしくはない。
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