Encole

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Encole

 あの夜から数年経った。  僕と彼女は二人でコンサートホールの中央にいた。客席は満杯。照明は暖かく僕らを照らし、ホールは静寂に包まれていた。  美しいロングドレスを着た彼女はピアノにすらりとした白い手を伸ばす。自分のスーツに身を包んだ僕は、バイオリンを構えた。  彼女の澄んだ瞳と僕の瞳がぴたりとあう。それだけで僕らは一つになれた。  すぅ……  静まり返ったホールで僕たちは同時に息をする。そうして一つの音楽を奏でる。客席の空気が和らいでいくのを肌で感じる。背中でピアノを弾く彼女が微笑むのがわかった。僕も思わず微笑む。  こうやって彼女と音楽を奏でているのが一番たのしかった。幸せだった。    最後の音がホールの天井へ溶ける。 「Bravo!」  誰かの声がして、割れるような拍手に僕らは包まれる。僕らは二人で微笑む。この時の彼女は一番うつくしかった。それから二人揃ってお辞儀をする。拍手は一層大きくなった。  僕らの音楽は、僕らのくすりだった。同時に、この場にいるみんなを癒すくすりだった。彼女がわらった。僕もわらう。  今日も僕らは音楽を奏で続ける。そうやって一人でも多くの人を癒していくのだ。今日も、明日も、その先も。  彼女と二人で世界に音楽を届けていく。
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