第6話

5/6
前へ
/47ページ
次へ
(ああ、なんて事……)  どうしてこんな事になってしまったんだろう。  ここまでの事になろうとは思わなかったのだ。  ただ、ほんの少しだけ彼の心の隙間に入り込めたら良かった。  それがいつしか、こんな事に……。  手を離されたウイル様の目に浮かぶものは、困惑と……。    自らの行動に、その手を眺めてから降ろす。  困惑と、後悔だろうか?  悔いるように顔をしかめ、ウイル様は反対の腕で私の背中へ手を回し、そのまま抱き起こして下さった。 「すまぬ」 「……いえ、……ごめんなさい」 「謝らないでくれ!」  その怒号に身体が震えた。  思わず出たのだろう、彼も自分の出した大声に驚いている。  私を抱きしめる手に震えが生まれ、それが背中へと伝わり、彼の気持ちが私の心で形作れられる。  怖いのは私だ。  男の人に想われる事が、怖いのだ。  あの王子との件が引いているなど思いたくは無い。でも、家族にも否定された事が、結果として恐怖に繋がってしまっていた。  これでは、いけない。  ウイル様には否などない。このような卑しい女が、俗世に囚われた女が共に生きて良いわけがない。  だが、その前にまずは言わねばならない事がある。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加