第6話

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「申し訳ありません。私は、貴方の想いに応えることはできません」 「……」 「ですが、感謝しております。このような私を気遣って頂き、誠に感謝致します。その御恩を返させて頂きますので、それまでを共とさせて頂くという形でならば」  瞬間、ウイル様の手の力が解かれる。  抱き寄せていた私の顔から、その逞しい胸元が離れ。  いや、やはり卑しきは私という女だ。何故、もの寂しさなど感じてしまうのか。    認める訳にはいかない、あの方の胸の内に、私の心が捉えられているなどと。  捨てて、忘れ去られるべき卑しさなのだ。あのような感情如きは。 「わかった。……では、それまでは俺は今のままでいよう。貴女の傍にいると約束したい」 「ありがとうございます。そのお気持ちだけで、これ以上はありません」  その日はそれで、どちからと言うでも無く解散となった。  それぞれの部屋へと戻り、ベッドへ蹲る私は、今に縋り付く未練を失わずに済んだ事に安堵を覚えて、離す事を躊躇って……。  だから、卑しいのだ。私如きは……。  いつの間にか、意識は夢の中へと逃げのびていた。  ……  …………  ………………  あの夜の事、私達二人は口にも、勿論態度にも出さず。  この共同生活は、順調であると言って差し支えない。  いつかは終わらせなければ、そうだ、終わらせなければならないのに。  この生活を楽しんでいる自分がいた。  それは、とても浅ましい考えだ。  私には、そのような資格など無いはずなのに。  ウイル様は、毎日のように屋敷に帰ってこられた。  その度に、私に色々と話をしてくれる。  狩りの話や、森で起こった出来事など、やはりどれもが新鮮で興味深かった。  そう思わせるように話すのだから、この方には話術の才覚が見える。  ――ああ、いつまで。せめて、このまどろみの中で死ねるなら。  つまらない願いだ。死を願う者に女神は微笑みを与えては下さらないのに。  終わりは訪れた、私の望むように。  そして、私の望まぬ形で。
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