ファンタジック・マッド・サイエンティスト

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すると、医師はとんでもないことを宣い出した。 「実はさ、実家のママに治験を頼んだんだよ」 「え? 治験をですか?」 「私のママは私のやることは全てを受け入れてくれる、最高のママだからね。実家に薬を届けたんだ。ママも経過報告をしてくれるって言ってくれたんだけど……」 「それで、透明になったんですか?」 「わからないんだよ。今日で薬を送ってから三日になるけど、連絡がないんだよ。やっぱり遠くに一人暮らしをさせてるのは心配だよ。ああ、私も君も多忙な医療関係者でなければ引き取るものを……」 女医と姑である医師の母との関係であるが…… 正直、よくはなかった。 姑は何かと言うと「息子のことは私がよく分かっている。嫁は口を出すな!」と、マウントを取ってくるのである。姑であるが、息子(医者)を女手一人で医者にするまで育て上げたシングルマザー、息子に愛情を一心に注いでおり、それが未だに抜けないのか、もう還暦を過ぎているのに子離れが出来ていない。 結婚をする時も「女医が家事なんか出来るわけがない。あの子(医師)の好きな料理も作れないくせに嫁を名乗るな! 私はアンタを嫁と認めん!」と、猛烈に反対されていた。それ故か、女医と姑との対立関係は現在(いま)も継続中。 もし、姑を引き取れば苛烈なる嫁いびりに遭うのは明白である。 この時ばかりは(ウチ)に姑を引き取り、同居する余裕がなくてよかったと、女医は心から思うのであった。  医師は女医にタブレットを差し出した。 「申し訳ないんだが、薬の治験をしてくれないか?」 「はぁ!?」 「もう私の近くには君ぐらいしか治験をしてくれそうな人がいないんだよ」 「あたしに透明になれと? 透明になったらどうなるかもわからないのに?」 「そうだ。私の実験台になってくれ! 人間での治験結果がどうしても欲しいんだ!」 女医は志の高い医学の徒である。現在も整形外科医として何人もの患者を抱えている。 そのような身でこんな訳のわからない、投与すれば明日をもしれぬ透明人間になる薬なぞの治験を引き受けてよい筈がない。女医は「バカバカしい」と断るつもりであった。  すると、医師は泣きつくような悲しげな声で懇願を行ってきた。 「頼むよぉ? ママだって喜んでこの治験を引き受けてくれたんだよ? 君はママ程、私を愛していないのかい?」 あたしの実家に行き、父に「娘さんを幸せにします!」と、言ってあたしを嫁に貰ったのにに、実際は実験台にしようとしている。普通であれば百年の恋も冷めるような暴言である。
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