心霊写真はこうして出来上がります

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心霊写真はこうして出来上がります

 友達(?)になって早数日。気を抜くと押し倒されそうになるものの、それさえ除けば俺と隼人はそれなりに上手くやっていた。互いの名前を漢字で発音できる程度にはな。 「そうだ悠弥、(もも)を上げろ! そうすれば脚が前へ出る!」  隼人から陸上の手ほどきを受けてフォームを改善した結果、俺の脚は飛躍的に速くなった。元々体育の成績が良い方だったことも幸いした。  ピンポンパンポン♪ 『浮遊霊の皆さん、本日10時より花里自然動物公園にて、地元幼稚園が遠足予定です』  いつもの町内放送を聞いた俺達は、動物公園目掛けて坂道を走っていた。  オカルトを特集したテレビや雑誌で、後ろにもう一人知らない誰かが写り込んでいたり、腕が一本増えていたとかって写真がよく掲載されるだろう? アレを俺達は狙っている。  純粋に遠足を楽しんでいる園児諸君には悪いが、何十枚と大量に記念撮影する際は要注意。霊にとって絶好のアピールチャンスだったりするんだ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってヤツ。が薄くとも、一枚くらいには姿を残して干渉できるかなって。 「よし、死者は俺達だけだな」  動物公園は山を切り開いて造られた施設なので、入場ゲートに到着するまでも多少の勾配が在って走るのがキツかった。車で来られたら楽だったのにな。園児達はバスをチャーターして来園していた。  ライバルの死霊達は蹴りを入れるまでもなく、坂の途中で息が上がって次々に脱落していった。俺がここまで来られたのは隼人の励ましが有ってこそだ。 「おお、さっそくゲート前で集合写真を取ろうとしている組が居るぞ。俺達も写りに行ってくるか」 「それなんだが隼人」  今までの俺はとにかく他亡者に()り勝って、アピールタイムを獲得することしか考えていなかった。だがいざ権利を手にすると心配事が出てきた。 「彼らに心霊写真を撮ってもらって、それを雑誌やテレビ局へ投書してもらうのが目的だよな?」 「そうだ。テレビで取り上げられれば多くの人々の目に触れる。俺達の家族も見てくれるかもしれない」 「でも俺達が成仏できていないと知ったら、家族は悲しむんじゃねーかな?」  最後のメッセージを伝える為には、対象者とのチャンネルを繋げる必要が有る。その為には「○○はここに居るよ」と相手に認識してもらうのが一番だ。だからこそアピールタイムが欲しかった訳なんだが……。 「その問題には、かつて俺もぶち当たったよ悠弥」  隼人は頷いてから答えた。 「いかに心配させずに、自分の存在を家族へアピールするにはどうすれば良いのか考えた。そして俺は生前と同じく、元気に駆け回る姿を映像に残せばいいのじゃないかという結論に落ち着いた」 「ああ、肝試しに来たウェーイ系大学生を追い掛け回したってのは……」 「俺が死後の世界でも大好きな陸上を続けていると、家族に知ってもらいたかったんだよ」 「なるほど、それはいい方法だな」  間抜けな会話に聞こえるかもしれないが、俺達幽霊もそれなりに大変なんだよ。 「俺はどうやって写ろうかな。俺には隼人みたいにパッと見で判る趣味がねぇからなぁ」 「穏やかな笑顔で写るだけでもいいと思うぞ。あとは……友達と並んで写るとか」 「友達と?」 「悠弥があの世で独りでないと知れば、親御さんは安心するだろう」 「隼人……」  死後の世界での友達なんて隼人しか居ない。コイツ、「俺と隣同士で写ろうぜ」って誘ってくれているんだ。  胸が熱くなり尻の穴がキュウゥと引き締まった。 「ああ写ろう隼人、一緒に」 「悠弥……!」  俺達はいそいそと三列に並ばされた園児達の後ろへ回った。職員達の列に紛れ込んだのだ。  そっと隼人が肩を抱いて来た。ドキリとしたが俺は抵抗せずにそれを受け入れた。  はたして現像された写真に俺達は姿を残せるだろうか? そしてその写真を見た人はどう思うのだろう。心中したゲイカップルの心霊写真だと思われるに千円。 「はいみんなこっち見てね~。撮るよ~」  幼稚園の出入り業者と思われるカメラマンが指示を出した。 「目を(つむ)らないようにね~」 「……ムッ、ムム! 死霊の匂いがプンプンしておる!!!!」  急に職員の一人、かなり年配の禿げた爺さんが騒ぎ出した。複数人の女性職員が爺さんへ視線を移した。 「園長先生? どうされました」 「近くに死霊が居る! 印象としては男の二人組だ!」 「し、死霊? 幽霊ですか……?」  おいおい言い当てられたよ。男の二人組って俺と隼人のことだよな? 「ヤバイ悠弥、一旦離れよう。この幼稚園は寺が運営しているヤツで、あの園長はおそらく住職だ」 「坊さんかよ! 禿じゃなくて頭を丸めていたのか!」  僧侶と言っても大半は霊能力を持たない坊主達だ。しかしこの住職は視えはしないが感じる能力を持っているらしい。  俺と隼人は即座に記念撮影の列から抜けた。そのまま手に手を取って遠くまで駆けた。まるで映画のワンシーンのように。  写る機会を逃してしまったが、俺はあまり残念だと思っていなかった。以前はあれほど望んでいたアピールタイムだったのにな。  ただただ、繋がれた隼人の手が温かくて……。
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