13人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
魂の還る場所(エピローグ)
「悠弥、向こう側へ渡ることが怖いか?」
法事の時しか寺へ行かない信心薄い身だが、浄土真宗の門徒である俺はこれから成仏することになるのだろうか。
「うー……ん。あっちがどんな世界か判らんから少しだけ不安かな。でも行く時は隼人も一緒なんだよな?」
隼人の身体も綺麗になってきている。同じ時期にこの世を旅立てそうだ。
「ちなみに隼人って宗教入ってた?」
クリスチャンだった場合はどうなるのだろう? 他の宗教も。魂の行き着く場所への見解の相違で、離れ離れになっちまうのは嫌だなぁ。
「俺自身は無宗教だ。実家は確か浄土宗だった」
安堵した。浄土宗と浄土真宗の違いは有るが同じ仏教徒だ。きっと魂が還る場所は同じだろう。
だのに隼人は頭を左右に振った。
「……俺はまだこの世に未練が有るから、おまえと行けるかどうか判らない」
「えっ」
そんなこと言うなよ、俺はまた独りぼっちになっちゃうじゃないか。隼人を独り残して行くのも嫌だよ。
「親御さんと最後の会話ができていないからか? 俺にできる限りの協力をするぞ?」
「ありがとう悠弥。……でも違う。親に関してはもういいんだ。明るくて前向きな性格の妹が二人も居るからな。俺の死は残った家族四人できっと乗り越えていける」
「では……未練とは何だ?」
隼人が俺を見つめた。
「俺の心残りはおまえだ、悠弥」
「え? 俺?」
微笑んで隼人は告げた。
「この世界でおまえと結ばれたい。それが今の俺にとっての最大の望みだ」
「隼人……!」
曇りの無い瞳で何てことを言うんだアンタ。向こう側へ旅立つ前に、俺に別の世界の扉を開けろと誘惑するのか。この欲張り屋さんめ。
いつもなら腹を立てる俺なんだが、この時は隼人の心残りが俺だと知って嬉しかった。
嬉しいとはつまり、もう俺の答えは出ているんだろう。
「隼人は……俺を抱かないと成仏できないワケ?」
「そうだ」
「はっ、我儘な上にちゃっかりしてるな」
「知ってる」
俺達は笑い合って、数秒後に真面目な顔をして向き直った。
その瞬間を待っていた隼人が顔を近付けてきて、ついに二人の唇が重なった。最初は試すように、徐々に力強く。同性愛者じゃなかったはずなのに、まるで嫌と感じていない俺自身に戸惑った。
「……いいのか? 悠弥」
口を離した隼人が尋ねた。ここまでしておいて今さら何だよ。
「いいよ。俺は隼人と一緒に向こう側へ行きたいからさ」
「ああ悠弥、イク時は一緒だ」
違う。何だかニュアンスが俺と違う。でもこれが隼人だ。
いつも俺の前を走っていた憎いあんちくしょう。速くて強くて余裕綽々でエロくて、だけど優しくて温かくて……。
今度は俺の方から唇を奪った。少し慌ててたぞ隼人のヤツ。ざまーみろだ。
「悠弥……」
「俺だってヤラれっ放しじゃねーんだからな?」
ニカッと笑った俺は隼人に公園の土の上へ押し倒された。そしてヤツは真剣な眼差しでほざいた。
「前にも言ったが俺はバリタチだ。そこは譲れない」
……コイツはよ。そういう意味でキスしたんじゃねーよ。
ペンキが色褪せたパンダくんのモニュメントと、ゾウさんの滑り台が冷めた目でこちらを見守っている気がする。大切にされた道具には神様が宿るんだっけ? 付喪神とか言う。
児童の皆さんすみません。これからキミ達が愛する遊具の側で、大の男二人が夜の運動会を開始します。付喪神様もいらっしゃましたら、今だけでいいので目を閉じていて下さい。
隼人が白Tシャツを脱ぎ捨てた。幽霊同士のHでも服脱ぐんだね。ああ、痛々しい胸の傷が小さくなっていて、逞しい筋肉に目を奪われる。男の目から見てもカッコイイなぁコイツ。
俺の服も当然脱がされていた。重なる二人の肌。不思議だ。死んでいるのにさ、やっぱり隼人からはいつも温かさを貰っている。
魂の還る場所は判らない。でも隼人と一緒なら行けるさ、何処へだって。
繋がったこの温かさだけは、確かな真実だと感じているから。
《完》
■■■■■■
一度は完結しておきながら、コンテストに参加したいからと再連載した当作品、かなりの加筆修正をして今度こそ完結です。おかげさまで規定の二万字を超えました。これでコンテストへ応募できます。ヒャッホーイ!
それと間違えて過激描写タグを付けてしまったので、それならばと後半ちょっとえっちにしました。せっかくなので。
他サイトだと血がドバシャー出る残酷描写が物語に含まれる場合、R指定にしなくてはいけないんです。そのノリでエブリスタさんでも過激描写タグを付けてしまいました。私の作品では絶対に誰かしら死にます。
どうかしている死霊コメディですが、とても楽しく執筆できました。読者様にも楽しんで頂けていたら幸いです。
最後までお付き合い下さいまして、本当にありがとうございました!!
最初のコメントを投稿しよう!