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立ち入り禁止の札が貼られた柵の扉に、鍵を差し込む。
長い間、警備員自身も入ったことはなかったのだろう。鍵を回すのに多少手間取ったが、錆びついた金属音を響かせながら、扉は開いた。
柵をくぐり、二十年ぶりに、百貨店の中へ入る。
入り口にあった自動ドアは粉々に砕け、そこから一階部分を見通すことが出来た。
無惨な姿だった。
確か一階は加工食品売り場だった。業火によって黒焦げになったパッケージや棚が、半分灰になって地面に散乱している。現場調査に踏み込んだ警察や専門家の足跡がいくつもある。彼等に、これらを片付ける義務はない。
奥へ行くと、上下へ向かう階段と、エレベーターのドアがあった。七割近くが炭と化した案内板が壁に設置されている。
俺達はあの日、どこにいたのだったか。階段付近の間取りはどの階も同じだから、鮮明な記憶の中にヒントはなかった。
朧げになっている記憶を頼りに、案内板の、炭化して塗りつぶされた部分を思い出す。衣類は二階。家具が三階。電化製品と玩具が四階。
階段を見ると、そこにも足跡が残っている。まだ使えるだろうか。
後ろを見る。警備員はまだ戻ってこない。階段を一段、踏み締める。崩れ落ちる気配はない。もう一度だけ振り返ってから、降り積もる灰を蹴り飛ばすように、俺は駆け足で上の階へと上がっていった。
そうだ、玩具売り場だ。五歳の兄弟がデパートで居座る場所なんて、そこしかない。
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