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気配がした。四階へ続く階段の折り返しの所で、何かが動く音がした。
息が上がっていたのも忘れて、階段を駆ける。
あの日もそうだ。何かが動いた気がした。
鉄の箱の中に閉じ込められ、熱気で目も開けられなくなってきた時。
入ってきたドアはいくら叩いてもびくともせず、ついには熱で触れることすらままならなくなっていた。体温を遥かに超える熱気に包まれ、乾き切った喉が呼吸にすら悲鳴をあげ、兄貴と二人して、エレベーターの隅に倒れ込み、互いを掴み合って、朦朧とした意識の中で、小さく震えていた。
その視界の端で、何かが動いたのだ。
それは錯覚などではなく、扉の付近ではなく、扉自体が、ガタガタと動いていた。
力任せに外からこじ開けられ、そして、ひどい火傷の跡のついた左手が、俺たちの方へ伸びてきて……。
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