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燃えていた。
包装された怪獣の人形や、棚に陳列されたミニカーや、好き勝手に触ることができたパズルや、ついに触ることすらなかったゲーム機やゲームソフトが、真っ赤な炎と熱気によって、まさに今、ドロドロと溶けていた。
何かが壊れる音がする。支柱が燃えた棚が崩れ落ちる音だった。ゴオォ、と響く熱風と、棚が崩れ落ちる音が四階に響き渡る中、俺は呆然と立ち尽くしている。
なんだ。
なんだこれは。千切れた配電から埃に引火でもしたのか。
考えが追いつかない。追い打ちをかけるように、視界に二つの影が飛び込んだ。
まだ小学校にも登っていないであろう、小さな子供が二人。背後から迫る業火から逃げるように、脇目も振らず走っている。
彼らは俺に気づく様子もなく、何の躊躇いもなく、救いの手の如く現れたエレベーターへ駆け込もうとする。
「やめろ!」
叫ぶ声は何かが崩れ落ちる音にかき消され、直後、目の前に熱せられた粉塵が舞い、天井の一部が崩れ落ちてきた。
咳き込みながらも、視線は動かない。動かせない。頼む。頼む。頼む……!
だが、煙が薄れ、見えた瓦礫の向こう側では、すでにエレベーターのドアは閉まっていた。
間違いない。
この炎は紛れもなく、あの日の火事だ。
ここは、二十年前の、あの百貨店の四階なのだ。
俺は今、俺の過去を目にしている。
兄貴の人生を消し去り、俺の人生を狂わせた分岐点に、俺は戻ってきたのだ。
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