妖華町

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「えっとお嬢ちゃん。どうしたのかな?急にぶつぶつ言い出して。き、聞こえているかな。おーい」 困惑する電車の乗組員さん。 「ママ、あのお姉ちゃんどうしたの?」 「坊やあのお姉ちゃんの姿をよく見ておくのよ。ぶつぶつ言うことで自分の中にある悪いものを吐き出しているのよ」 「そうなんだ、すごいね」 「いいえ、すごくないわ。これだけは覚えておいて。絶対に他の人がいるところでしてはダメよ」 「え、なんで?」 「いいから覚えておいて。絶対にしてはいけないということを……」 過去の失敗を繰り返さないように、同じことをしている少女を手本として子どもに教える母親。 「な、なんということじゃ!あの女の子に危険なものがついておるぞ。皆のもの、念仏を唱えよ!」 ぶつぶつ言っている彼女と同じように突然小さい声でゴニョゴニョと言うご老人の集団。 電車内はまさに混沌と化した。 女子高生のぶつぶつ声から始まった理由の分からない空気を、誰も変えることができないまま電車は終着駅へと着くのであった。 (※ちなみに混沌は英語でchaosと書きます) 「ヨウカ駅、ヨウカ駅に到着です。降りる時は荷物を忘れないよう…」 アナウンスの声を聞いて、私は我に返る。 え、もう目的地に着いたの? 一体どれぐらいあのモードになっていたのだろう。いや今はそんなことどうでもいい。急いで降りないと! 確かヨウカ駅はどこかの線の途中駅。初めて来たんだ。乗り過ごして戻ってくるなんて……。 面倒くさくて嫌! 「お客様に連絡します。ただ今市内全域に落チュン(※らくちゃんと読む)警報が出ております。解除されるまで……」 こんなところからつますぐわけにはいかない。 前を向くのよ、あたし! 今こそ変わる時よ、あたし! さあ、その一歩目を踏み出す時よ……。 そう思い私は駅のホームへと降りた。 その時。 「チューン……」 ゴンッ゙ッ゙ッ゙! 頭にボーリングが落ちてきてあたったのではないかという衝撃と、低く鈍い音が辺りに響きわたる。 ああ、どこまでついてないんだろ私……。 世界はちょっとずつ暗くなり、やがて暗闇に覆われた。 666dbbdf-fc27-4209-8f46-9e3d1969acfa 落チュン警報時の事故
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