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大学二年の夏休み、小説のコンテストに応募する為のネタ探し中、クラシックな佇まいと、《夏氷》の文字を見て反射的に喫茶店のドアを開けた。チリンチリンと涼しげな風鈴の音が気持ちいい。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
カウンターの中から落ち着いた女性店員の声がした。ノートパソコンで作業中の女性店員は実は潜伏中の捜査官で、客と犯人を顔認証していたりして、と妄想が広がりかけた時、濃紺のエプロン姿の若い男性店員が涼しげな風を纏ってやって来るところだった。
「すみません。暑がりのお客様が多くて、寒くないですか? よろしければ窓側のお席へどうぞ」
言われるがまま席に座ると男性店員がお冷やをテーブルにそっと置いた。
「おしぼりをどうぞ」
スラリとした長い指に触れないように受け取る。
「ありがとうございます」
おしぼりは武器になりそうなほど硬い。まるで氷柱だ。これも、暑がりの客の為だろうか。
「図書館にいらっしゃったんですか?」
「うえっ?」
色白で睫毛が長く、小説の主人公にそのままなりそうな物腰の柔らかい男性だと見惚れていたせいで、すっとんきょうな声が出た。
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