夏氷

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「もう、なんなのその仏頂面は。どうしてもアルバイトしたいっていうから許したのに。ほら、さっさとお冷やを持って行って」  店長は小声のつもりかもしれないが、狭い店内では丸聞こえだった。周りの客が笑いを堪えているのを見ると、ほとんどが常連客なのかもしれない。気を取り直し、先日と同じ窓際の席に座ると、秀太はお冷やとメニューを抱えてやって来た。 「ーーいらっしゃいませ」  間近で見る秀太は、志信に似て整った顔立ちをした青年だった。もしかしたら、高校生くらいかもしれない。 「あの、お兄さんと少し話をして……。秀太さんがこちらにいらっしゃると聞いて来てしまいました」 「あんたの小説読んだよ」 「えっ」  まじまじと秀太の顔を見ると、さっと目線を外されてしまった。 「つまらなくはなかった」 「はあ」  褒めているのか微妙な言い方だ。 「ただ、共通して言えるのはキャラクターが薄くて、話の盛り上がりにかける」  歯に衣着せぬ言葉がグサリと胸に突き刺さった。 「それに、あんた書いていて楽しい?」  楽しいに決まってると直ぐに言い返せなかった。 「それは……。作品によります」  自分でも情けない逃げ方だと思った。
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