夏氷

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 カウンターでノートパソコンをいじっている中年女性は店長だったらしい。男性店員は天井の梁を気にしてか、少し猫背気味に歩いて行った。しなやかな猫科の動物のような色気がある。小説の主人公にするなら、殺し屋や恋愛詐欺師なんていうのも面白そうだ。  柔らかくなったおしぼりで手を拭く。スッと薄荷の匂いがして、身体にこもった熱が急激に冷えていく。席には夏らしく向日葵のイラストが入ったうちわが置いてあり、カウンター席の男性客がパタパタと気持ちよさそうに扇いでいた。 「今年は梅雨明け早いねえ。かき氷、売れてるでしょ」  そのカウンター席の男性が、冷やかすように店長に話しかけた。 「そうですねえ。ありがたいことに……」 「おまたせしました、クリームソーダです」  横から先ほどの男性店員が、男性客の前にクリームソーダを差し出した。 「おお、これこれ。やっぱりバニラアイスじゃないと」  スプーンでアイスを嬉しげにすくった。 「ソフトクリームがいいと仰るお客様もいらっしゃるんですが」 「フルールさんはこれが良いんだよ」 「ーー有難うございます」
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