夏氷

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「ごめんなさいね。身内の話をふってしまって」  これでこの話は終わりと、男性客の空いたグラスに水を注いだ。 「ごちそうさま」  男性客は読んでいた新聞を片付けて帰って行った。 「ありがとうございます」  店長が男性客を見送って、にこにことこちらへやって来た。 「ごめんなさいね。良い人なんだけど、オネエチャンなんて気安く呼んで、時代に取り残されてるのよ」  親しい仲らしく、言葉に遠慮がない。 「あっ、いいえ」 「温かいお茶と冷たい麦茶、どちらがいいかしら」 「温かいお茶で……」  白田コンはミステリーやホラー、青春小説に恋愛小説、はたまたファンタジーなど、一人の作者が書いているとは思えないほどジャンルに幅があった。私は幼少期から作家に憧れていて、高校生の頃に小説を書き始めたが、最近になって白田コンの小説を読んでショックを受けた。だから、少しでも近づける様にと色んな小説を読み漁っていた。 「少しは涼しくなったかしら」 「はい、頑張って帰れそうです」 「それは良かったわ」 「あの、息子さんのことなんですけど……。私、よく知っていて」 「えっ、息子のお友達?」
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