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「いえ、白田コンさんの小説を読んだことがありまして」
「あらまあ」
世間は狭いと笑った。
「志信、貴重な読者さまよ」
「え?」
男性店員に向かってそう呼ぶと、彼はカウンターの中で目を丸くした。
「まさか、自分の小説を読んでいる人にここで出会うとはね」
そして、嬉しそうに笑った。
「もしかして、小説に出て来た喫茶店はこちらがモデルですか?」
古民家の雰囲気がある喫茶店が舞台のヒューマンドラマを最近読んだばかりだった。
「そうなんだ。いくつかの喫茶店を参考にしてるけど、どうしても似てきちゃうよね」
穏やかな風貌の彼から、血生臭いホラー小説が編み出されるのかと思うと不思議な気持ちになった。
「あの、そういえば先程のお客さんが言ってた小説志望の息子さんって……」
確か別の名を言っていたはずだ。
「ああ、秀太は僕の弟で、白田コンは僕と秀太が合作した時のペンネームなんだ」
「えっ、そうなんですか」
「二人とも得意分野が違って、苦手意識を無くそうと一緒に書いてみることにしたんだよ。例えばね、秀太が出したアイディアから、物語を膨らませて僕が文章にするというような感じかな。もちろん、その逆も」
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