浜辺瑠璃は、鎌倉にいた!

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浜辺瑠璃は、鎌倉にいた!

おれたち三人は、正面玄関を出て左にあるバス待合所の椅子に座っていた。 「留守を頼んでた太田さんから、ばあちゃんに電話があったんだ。同級生が店に来たから病院に会いに行くかもって。距離もあるし、まさかなって思ってたら、本当に来たんだな」 「あったり前だろう! 泣きながら電話を切られたら誰だって心配になるぞ。で、輝希は大丈夫なの?」 ておれは聞いたけど、今日の輝希の顔はいつもより穏やかに見えた。 輝希は少し顔を下に向けた。けど、悲しんでいる様子は感じない。 「実はさ、おれのお母さんが入院しているんだ」 「えっ? おばさんが? 具合悪いの?」 おれは驚いて目を開いた。 いつも店先やサッカークラブで会っていたから、おばちゃんとおれは仲良しだ。いつも元気ではきはきしているおばちゃんが入院だなんて、想像できない。 「切迫(せっぱく)流産(りゅうざん)で先週から入院してたんだ」 「せっぱく…りゅうざん? 赤ちゃんがいなくなったの?」 浜辺がゆっくりと復唱したけど、そのあとの言葉に、おれは息をのんでしまった。 でも、輝希は頭を横に振った。 「ううん。赤ちゃんは無事だったんだ。でも、予定より早く産まれそうになって、安静のために入院になった。そのまま産まれると死んじゃうかもって医者に言われていたから…。おれ、ショック過ぎて誰にも言えなかったんだ。ごめん…」 「そんな事情なら、誰だって同じ気持ちになるよ」 おれは輝希に向かい合い言った。 輝希は目が合うと、微笑んでくれた。 「それで今日、無事に女の子が産まれたんだ。まだ小さくて保育器の中だけど、元気だって。…うっ…」 すると、輝希の目からぽろぽろと涙があふれ出した。 「そっか。妹だったんだ。よかったね、おめでとう」 浜辺が優しく声をかけてあげる。 輝希はうんうんうなずいて答えた。 「昔、聞いた話なんだけど、おれと弟の良希は不妊治療でさずかったんだって。うちの両親、23歳で結婚してからずっと赤ちゃんができなくて、治療しておれたちが産まれたんだ」 「もしかして、だから名前が『()()望』で輝希(・・)、なの?」 浜辺に名前の由来をばっちり当てられて、輝希は目を丸くした。 「なんでわかったの?そう、その通りだよ。良希は『良い希望』の思いを込めたって教えられた」 「素敵な由来だな」 おれがそういうと輝希は、てへへって照れ笑いした。 「今回は、自然に妊娠したんだって。親戚(しんせき)のみんなは奇跡だって喜んでたんだ。だから、切迫流産で赤ちゃんが危ないって言われて、みんなすっごくショックで…」 輝希の目からポタっと新しい涙が落ちた。 「お父さんもずっとお母さんに付き添ってくれたし、寂しがりやの良希の世話を俺が引き受けてたんだ。だから、青人には心配させちゃったな。ごめんな」 「無事に妹も産まれたし、輝希も安心しただろうし。結果良ければ全てよしってことだな!」 輝希にそんな事情があったとは知らかったから、すごく心配はしたけど、そういうことなら仕方ないよ。 なにより、可愛い妹が無事に産まれて、本当によかった。 これでようやく、おれも安心ができた。 輝希は涙で目の周りが赤かった。 でも、それはうれし涙。安心の涙。 つまり、とってもいい涙。 「無事に産まれて、体中の力が抜けた気がする。やっぱ、おれ、変に緊張してたんだな。うん、今日はよく眠れそう」 そういっていつもの輝希の笑顔を見せてくれた。 涙交じりの目尻を下げて。 おれもつられて涙がにじんでしまった。
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