浜辺瑠璃は、鎌倉にいた!

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高台にある病院から、湘南(しょうなん)の海に沈んでゆく真っ赤な夕日を見ながら帰った。 おれたちは並んで歩いた。 さんざん走りまくった足が少しだるいけど、ここちいいだるさだ。 「なんかさ、夕日の(あかね)色って、どうして切ない気分にさせるんだろうな」 「山村くんも切なくなる時、あるの?」 おいっ、おれのことどうみてるの?って思わせる質問だ。 おれは口をとんがらせる。 「おれだってあるよ。例えば、サッカーの試合で勝った日も、すっごい嬉しくて自慢しまくりたいのに、あの夕陽を見るとセンチメンタルになっちゃうんだよな」 そして今日もそうだ。 輝希は元気だし何の心配も要らない。 なのに、勝手におれは一人反省会をしてしまう。 「おれのひとり相撲だったな。そもそもタタリなんてなかったし、輝希はヤングケアラーでもなかった。なんかおれ、ダサかった] 夕陽は心の声を吐かせる力があるのかな。 それとも浜辺なら笑わずに聞いてくれるって思ってるからかな。 他の人には見せないおれを出してしまう。 「山村くんは友達思いなだけだよ。それに、誰だって失敗やかん違いもするよ。山村くんだけじゃないって」 ほらやっぱり、浜辺は優しい言葉で返してくれる。 「浜辺って頭いいから、そうやって前向きな言葉に置きかえるのが上手だね。うらやましいよ。おれはお調子もので、こうだ!って思ったらイノシシみたいに一直線だし」 「見方によってはそれも自分の長所だよ。ひょうきんで、目標に向かってがむしゃらに進める子ってね」 「おれの短所を長所に変えるなんてすごいっ。やっぱり浜辺は天才だな。いいなぁ、浜辺は悩みがなさそうで…」 夕陽に照らされたおれは、センチメンタル、というよりただのグチになっている…。 そんなおれを見て、浜辺が言う。 「ねえ、長谷寺(はせでら)に寄っていかない?」 って誘ってきたんだ。 「長谷寺ってこっから近いっけ?」 「うん、海寄りに坂を下っていけば着くよ。私のお気に入りの場所なの」 「そうなんだ。ちょっとだけならいいよ」 おれも浜辺のお気に入りの場所を見てみたくなっていくことにした。
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