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浜辺が言う通り、長谷寺まではすぐだった。
長谷寺は江の島電鉄沿いにある。六月は紫陽花、秋は紅葉スポットとして有名な寺だ。
シーズンになるとたくさんの人が訪れて、大行列をつくることもある。
実は、おれは行ったことはないんだ。
今日、初めての長谷寺に行くことになる。
「あっ。お金持ってきてない」
おれは拝観料を支払う寸前で気がついた。
しかし、そこはしっかりしている浜辺さんだった。
交通ICカードをポッケから取り出してニンマリした。
「ここは、これで支払いができるんだよ」
と二人分を支払ってくれた。
拝観料が交通ICカードで支払えることを知ってるとは、本当に長谷寺に通っているんだな。
中に入ると、弁天堂の前でまんまるお顔の和み地蔵が出迎えてくれる。
そして奥へと進み、観音堂を通り過ぎると「眺望散策路」と書かれた木の案内板が出てきた。
上を見上げると…
天まで続いているの? と思わせる石段が続いている。
「えーっ、これ登るの?」
今日はたくさん走りまくったから、さすがのおれも疲れている。この階段はちょっと自信ないぞ。
「絶景はこの先だもの。一緒に見にいこう」
って、ちょうど風が通り、浜辺の前髪がゆれた。
うっ…いいかも。
胸がムズムズするようなセリフと雰囲気のおかげで、おれはキツい階段を登ってゆくことができた。
慣れてるからか浜辺はスタスタ登って引き離されてしまう。
やっとの思いで頂上に着いた。
同時にすっごい絶景がおれの目に飛び込んできたんだ。
おれが住む鎌倉の街の180度大パノラマだ!
由比ヶ浜から材木座海岸まではっきりみえる!
浜辺が言う通り、長谷寺の高台からの見晴しは最高だった。
「はい、これ飲もう?」
と真横に立つ浜辺が、おれに冷えたジュースを差し出した。
走りまくったおれたちは、たしかにノドがカラカラだった。
「サンキュー」
て受け取って一口飲む。が、止まらず一気に半分を飲み干した。
「うんまーい! 生き返る!」
目をキラキラさせておれは叫んだ。
大人もよくビールを飲むとこんなセリフを言うよな。
その気持ちが今ならよくわかる。
体がうるおったおかげなのか、おれも心も落ち着いてきた。
「なんかさ、何も考えないでずっとこの景色をみてられるな」
「でしょう。すっごいきれいな景色で飽きないの」
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