浜辺瑠璃は、鎌倉にいた!

5/6
前へ
/51ページ
次へ
おれたちは鎌倉の街を見下ろしていた。 「人ってね、高い場所にいると悩まなくなるんだって。だから、時々はここに来て、一人でぼーっと景色を眺めているんだ」 そう言って、吹いてくる風に前髪を揺らし街をじっと眺めていた。 「浜辺にも悩みがあるの?」 「あるよ」 「聞いても…いい?」 おれは控えめに言った。だって、悩みは弱み、みたいなところもあるし。言いたくないこともあるから。 でも浜辺は、まゆを八の字にしながらも、教えてくれる。 「私は、自分がしたいように過ごしてるのに、みんなには不思議に見えるみたい。なんで仲良し女子がいないのとか、放課後もオンラインゲームに入らないのとか」 あー、たしかに。 物静かな浜辺だけど、他の女子とはちょっと違う。 逆に目立つ、といえばそうかもしれない。 浜辺は自分でもそれに気が付いていたんだ。 「友達なら、いつもどこでも一緒っていう感覚がよくわからないの。友達も大切だけど、やっぱり自分のことも大事だから」 「それはわかるよ。おれは浜辺とタイプは違うけど、やっぱり自分の気持ちが一番だもんな。きっと、周りの奴らが合わせてくれているんだろうけど」 きっとおれは幸せなタイプだ。 サッカーだって、輝希がおれに合わせてくれているのが、今回よくわかった。 浜辺が顔だけおれの方に向ける。 「私ね、山村くんが図書室で言ってくれた言葉が嬉しかったの」 「おれ、なんか言ったっけ」 記憶にないけど、一応、頭をひねってみる。 「みんな考え方が違ったほうが面白いって言ってくれたの。私みたいな子がクラスにいたって、山村くんは気にしないんだって、嬉しかった」 あ…、たしかにあの時、言った気がする。 深くは考えてはいなかったけど、あれはおれの本当の意見。 「あと、もう一つ。山村くんは大事なことを教えてくれた」 「え?なに?」 「困っている子を助けたいって思ったら、それが『友達』なんだよって教えてくれた」 「友達…か」 クラスでは浜辺は誰とも平等に接する。 でも、浜辺の友達は誰? と聞かれても、思い浮かばないんだ。 浜辺はもう輝希の友達だ!なんていつもの調子で言ってしまったけど、それが浜辺にとってはよかったのかな。 「私ね、友達ってどういう存在なのかよくわからなかったの」 「…そうだったんだ」 「困っている時に助けてあげたいって気持ちが強くなる子、それが友達なんだね。これ、山村くんから学んだよ。ありがとう」 にこりと笑った。 「ど、どういたしまして」 浜辺に感謝されるとは、過去のおれにお礼が言いたいくらいだ。 しかも、浜辺が笑ってくれたから、また素顔がみたくなっちゃったしっ。 おれは照れかくしで、ぐびっとジュースをあおった。 そのとき、タイミングよくおれのスマホからアプリの通知音が鳴った。 おれはスマホ取り出し確認すると、 子鹿ハーマからの新着コメントだった。 これがまた、絶妙なコメントとタイミングでして。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加