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おれたちは鎌倉の街を見下ろしていた。
「人ってね、高い場所にいると悩まなくなるんだって。だから、時々はここに来て、一人でぼーっと景色を眺めているんだ」
そう言って、吹いてくる風に前髪を揺らし街をじっと眺めていた。
「浜辺にも悩みがあるの?」
「あるよ」
「聞いても…いい?」
おれは控えめに言った。だって、悩みは弱み、みたいなところもあるし。言いたくないこともあるから。
でも浜辺は、まゆを八の字にしながらも、教えてくれる。
「私は、自分がしたいように過ごしてるのに、みんなには不思議に見えるみたい。なんで仲良し女子がいないのとか、放課後もオンラインゲームに入らないのとか」
あー、たしかに。
物静かな浜辺だけど、他の女子とはちょっと違う。
逆に目立つ、といえばそうかもしれない。
浜辺は自分でもそれに気が付いていたんだ。
「友達なら、いつもどこでも一緒っていう感覚がよくわからないの。友達も大切だけど、やっぱり自分のことも大事だから」
「それはわかるよ。おれは浜辺とタイプは違うけど、やっぱり自分の気持ちが一番だもんな。きっと、周りの奴らが合わせてくれているんだろうけど」
きっとおれは幸せなタイプだ。
サッカーだって、輝希がおれに合わせてくれているのが、今回よくわかった。
浜辺が顔だけおれの方に向ける。
「私ね、山村くんが図書室で言ってくれた言葉が嬉しかったの」
「おれ、なんか言ったっけ」
記憶にないけど、一応、頭をひねってみる。
「みんな考え方が違ったほうが面白いって言ってくれたの。私みたいな子がクラスにいたって、山村くんは気にしないんだって、嬉しかった」
あ…、たしかにあの時、言った気がする。
深くは考えてはいなかったけど、あれはおれの本当の意見。
「あと、もう一つ。山村くんは大事なことを教えてくれた」
「え?なに?」
「困っている子を助けたいって思ったら、それが『友達』なんだよって教えてくれた」
「友達…か」
クラスでは浜辺は誰とも平等に接する。
でも、浜辺の友達は誰? と聞かれても、思い浮かばないんだ。
浜辺はもう輝希の友達だ!なんていつもの調子で言ってしまったけど、それが浜辺にとってはよかったのかな。
「私ね、友達ってどういう存在なのかよくわからなかったの」
「…そうだったんだ」
「困っている時に助けてあげたいって気持ちが強くなる子、それが友達なんだね。これ、山村くんから学んだよ。ありがとう」
にこりと笑った。
「ど、どういたしまして」
浜辺に感謝されるとは、過去のおれにお礼が言いたいくらいだ。
しかも、浜辺が笑ってくれたから、また素顔がみたくなっちゃったしっ。
おれは照れかくしで、ぐびっとジュースをあおった。
そのとき、タイミングよくおれのスマホからアプリの通知音が鳴った。
おれはスマホ取り出し確認すると、
子鹿ハーマからの新着コメントだった。
これがまた、絶妙なコメントとタイミングでして。
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