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「あなたが今食べたのは人肉です」
「しかもあなたが大嫌いな人の肉です」
そう言われて
私は慌てて口の中の肉を吐き出す
けれど
もう既に
男の手によって無理矢理咀嚼させられた肉の大半は
私の胃袋へと流れ込んでしまった
”気持ち悪い”
”気持ち悪い”
必死で吐き出そうとするのだけれど
噛み砕かれてグチャグチャになった肉は
しつこく私の体内に居座ろうとする
居座って
私の体の一部になろうとしている
”出て行ってよ、気持ち悪い”
”あんたなんか大嫌いだって言ってるでしょ”
自分の口に指を突っ込んで
嘔吐の苦しみに顔を歪める私を
目の前の男が嘲笑う
見るとその男は
私におぞましい肉を食わせたその男は
私が食った肉の男だ
私が吐き出そうとしている肉そのものだ
「なんで私にこんな肉を食わせたんだ」
「お前なんかの」
「腐り切った不味い肉を」
苦しみと怒りに涙を流し乍ら
そう怒声を上げる私に
その男はふてぶてしく満面の笑みを浮かべて言う
「あなたの一部になりたかったからです」
「あなたに私を味わってほしかったからです」
「そうする事で私は特別な存在になりたかったのです」
そう言って
苦しみ嗚咽する私とは逆に
満ち足りた表情を浮かべているその男の邪悪さに
その男の浅ましく卑怯な穢れた顔に
もう我慢が出来ずに
私はその男の顔を切り刻む
その男が
私に肉を食わせる為に握らせたナイフで
「これはお前が望んだ事だ」
「お前は私に切られて噛まれて私の一部になりたかったんだろう」
「だから」
「本体のお前も」
「ズタズタに切り刻んでやる」
そうして私は男の全てを切り刻み
火を点けて燃やしてしまう
腐った肉の焦げる不快な臭いが立ち込めるのも構わず
私は自分の腹をもナイフで搔き切る
”早く出さなきゃ”
”早く”
”早く”
自分の腹に手を突っ込んで
必死に掻き出そうとする
けれど
胃袋に侵入したその腐った肉は
消化液に分解されて
私の体のあちこちへと流れ込んでしまった
”気持ち悪い”
”気持ち悪い”
血塗れになって泣き叫ぶ私を
燃えて灰になった男が嘲笑う
灰になっても尚
風にも飛ばされず
図々しく私の前に居座り
泣き叫ぶ私を見て歓喜の声を上げている
「もう元には戻れないよ」と
「あなたは私を食べてしまったんだから」
「もう」
「元には戻れないんだよ」と
依然として
ふてぶてしい微笑みを
灰になった醜い顔に浮かべ乍ら―
(2018年8月10日作の詩)
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