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「お、お前をスタメンに戻す。パシリもさせねぇ! それでいいだろ? なぁ!」
「そりゃいい決意だ。けど口ではなんとでも言える。証を作んなくちゃなァ?」
鳴川先輩が野太い悲鳴を上げる。右手がおかしな方向にしなってる。
「クハハ……決ーめた。右肘にしよう。大丈夫、ちょーっと神経は切れるけど、日常生活に支障は……」
「やめるんだ!」
ヴィントの前に飛び出し、必死で叫ぶ。ヴィントはゆっくりと僕に視線を移した。ドクンと心臓が萎縮して体の感覚がさっと引く。人を虫けらのように見る目、引きつった頬。やっぱり普通じゃない。この人は何人も殺ってる!
「なんで止めるの? こいつをどうにかすれば解決でしょ?」
「傷つけられたことを理由に、誰かを傷つけていいわけがない」
「説教? アホくさ。そんな綺麗事が通ると思ってる?」
「君の苦しそうな顔は見たくない」
ヴィントの目に灯った光が不安定に揺らぐ。僕はもう一歩前に出て、続けた。
「本当は嫌なんだろ? ヴィントがこんなことを好きでやるはずない!」
「うるさいよ。お前に俺の何がわかんの?」
「知らなくたって、ヴィントが無理してるのくらいはわかる。やめるんだ! 自分ごと痛めつけるな!」
ヴィントの目の光が溶けるように消える。風が止み、解放された鳴川先輩はその場で腰を抜かした。ヴィントはふぅと息をつき、袖口で目をゴシゴシとこすった。
「この期に及んで俺の心配かよ。どうかしてるな、裏の俺」
やれやれと首を振り、空き地から去っていく。一人にしてはいけない気がして、僕はヴィントの後を追った。
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