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「ヴィント、入るよ」
家に帰ると、ヴィントは透明の魔法を解いてくれた。僕は盆に載せた野菜うどん二人前を持って部屋に戻った。ヴィントは元のローブに着替えて、ベッドで膝を抱えている。
「床でごめん。これ、ヴィントの分」
「風太が作ったの? すげぇ」
「冷凍うどんをゆでて、残り野菜をテキトーに入れただけだよ」
「旨そう。温かい料理……湯気だけで沁みる」
ヴィントはグーで握ったお箸で器用に麺を持ち上げて口に運んだ。ただ薄めためんつゆで煮ただけなのに、本当に美味しそうに食べる。
「ヴィントって何してる人なの? もしかして闇社会の人?」
「はは! もしそうだったら気楽だったろうね。俺は稀代の天才と謳われる宮廷魔術師。こう見えて偉いんだ。一個旅団を抱えてる」
「旅団?」
「平和だとそんな言葉も知らないのか。要するに軍だよ。俺の国、戦争してんの」
「戦争だって?」
「うん。かなり長期化してて、指揮官すら前線に出る膠着状態。兵站も壊滅して、最近はパッサパサの携帯食糧で食いつないでた」
「そうなんだ」
言葉で説明されても全然想像つかない。でもこれだけは聞いておかないといけない気がする。
「ヴィントは、人を殺したこと、あるの?」
チュルッと麺をすすり、湯気で湿った鼻を袖口で拭う。ヴィントは後ろに手をつき、力なく頷いた。
「もう数えてない。捕虜を拷問にかけて、気づいたら死んでたこともある。陽動作戦のために兵を死地に送った。はらわたが飛び出た仲間に死の安らぎも与えた」
ヴィントはへらりと笑い、肩をすくめた。
「どう? 俺って結構やばいでしょ?」
「……わからない。でも戦争なら、仕方ないんだと思う」
「そう、仕方ない。全部仕方ないんだ。俺がこの先、ますます多くの人を死へ葬るのも仕方のないこと。毎晩葬った奴らの顔を夢に見るよ。んで飛び起きる度に思うんだ。こんな俺に、生きてる意味なんかあんのかって」
「え?」
「ははっ、そう。自殺を考えてたのは俺の方。風太に会いに来たのも、道連れにしていいような奴か確かめるためだった」
「まさか……じゃあなんで僕を助けたの? 放っておけば、ヴィントだって死ねたのに」
「お前が死んでいい奴だとは思えなかったからだよ」
僕が……?
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