1人が本棚に入れています
本棚に追加
「飛び降りる前に女の子とぶつかったろ。その子が怪我ないか心配して、手当てまでしてあげてた。なんて優しい奴だと思ったよ。死のうと思ってても、最期まで誰かのために動ける。こんないい奴が死ぬなんておかしい!」
ヴィントが拳を床に叩きつけ、食器がガチャンと鳴る。僕と同じ顔が悲痛に歪み、今にも泣き出しそうだ。
「さっきもそうだ。俺が苦しそうだからやめろって、死ぬほど怯えてたくせに何でそんな言葉が出てくるんだ! お前……お前、優しいよ。俺には釣り合わないよ……。ごめんな、こんな奴が魂の共有者で。こんな、血みどろに、汚れきった……」
「ヴィント」
落ち着けるようにヴィントの手を取る。危なくないように食器は脇によけた。
「優しいのはヴィントの方だよ。優しくなかったら誰が道連れになるかなんて気にしない。どんなに辛くても、死んだ人を背負って生きてるって凄い。僕だったらとっくに壊れてる」
「風太……」
「それに、国の人達を守るために戦ってるんだよね? 強くなきゃ出来ないことだよ。尊敬する。僕はヴィントが魂の共有者で嬉しい。むしろこんな僕が相手でいいのかって思うほどで……」
「そんな風に自分を悪く言うな! お前はすげぇ奴だ、なんでわからない? 俺がこんなに好きだと思った風太が、どうして自分を好きになってくれない!?」
感情が高ぶり、ヴィントは僕の両肩を揺さぶった。鼻の頭が赤い。もう殆ど泣いてるんだ。
「死ぬなんて言うなよ……。生きてくれよ、風太……」
「……それ、そっくりそのままヴィントに返したい。こんなかっこいい人が死ぬなんて間違ってる。ヴィントには平和な時代で、美味しい物食べて幸せになってほしい。僕もヴィントのことが好きだって思うから」
顔を上げて、袖口で目を強くこする。
「いいのか? 俺、生きてて」
「うん。当たり前だよ」
「そっか……。風太の言葉なら信じられる気がする。俺は生きても……」
きっと魂を共有した僕達は根っこの部分は同じなんだ。自分のことは嫌いで仕方ないのに、僕達は互いに生きててほしいと思ってる。でも、ヴィントが好きって言ってくれた僕を少しは好きになってみたい。僕もそう思うから――
「ねぇ、ヴィントって記憶を消すことは出来る?」
「出来るけど。トラウマ治療で使うし」
「だったらお願いがあるんだ」
最初のコメントを投稿しよう!