突然

1/1
前へ
/152ページ
次へ

突然

ランチの時間を過ぎ、お客が一気に引いた。 最後の客にコーヒーを出し、一息ついたとき入り口のカウベルが鳴った。 入り口に一人の男が立っていた、バイトの亮太が奥の席へ案内した。 メニューと水をトレイに乗せて持っていく、お客は店内を見回し「コーヒー」をオーダーした。 ランチに訪れるビジネスマンとは少し違う印象、会社の上司か役員といった感じ。 「(あお)さん、コーヒーお願いします」 「はい」 奥に居た(あお)がコーヒーを入れるためにカウンターへ出た、オーナーは遅いランチを食べていた。 カウンターに立った(あお)は奥の席に視線を向けた……… 天花爾 京輔(てんけいじきょうすけ)京輔(きょうすけ)…………」 亮太がコーヒーをトレイに乗せて客の元へ歩いて行った。 「君!カウンターの彼を呼んでくれないか」 「…………はい」 「(あお)さん、お客さんが呼んでますけど………」 「…………うん」 カウンターを出て京輔の席まで歩いた、身体が浮いてるような妙な気分がした。 この場所がどうして京輔にわかったのだろう、なぜ彼が僕の前に現れたのだろう? あの部屋を出た理由をあいつは知らない、あいつが出張から帰る日俺はあの部屋を出た。 あの部屋に初めていった日に着ていた服を着て、電車に乗った。 あいつには絶対見つからない街へ向かった。 もう二度と逢いたくなかった。 それなのに・・・・・ あいつが目の前にいる。 黙っていなくなった俺を見ていた。 あの部屋に俺が必要だった理由を知った。 あの部屋で俺は俺じゃなかった。 お前が見ていたのは、あいつに似せた俺だった・・・・・ 俺はただ、ほかの誰でもなく俺自身を見て欲しかった…………
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

425人が本棚に入れています
本棚に追加