429人が本棚に入れています
本棚に追加
邂逅(かいこう)
あれは四年前、俺は二十歳になったばかりだった。
あの日あいつに逢った………
突然目の前に現れたお前はその日から俺を翻弄した。
一目惚れしたと言われ、一緒に住もうと誘われ・・・・・
信じられない展開に、正常な判断が出来なくなっていた。
言われるまま俺はお前のマンションに引っ越した。
そして当たり前のように抱き合った。
恋人だとはっきり言われた訳ではないが、そう思い込んでもおかしくない毎日だった。
3年もの間、俺は俺なりに幸せだった………あのことに気づくまで………
自分が誰かの代わりなんて思ってもみなかった。
気づかなかったと言えば嘘になる、ある種の違和感は感じていた。
唇を合わせるだけのキス、バックからだけのsex………
抱く時一度も俺の名前を口にしない………
いくら初心でも、キスだってsexだってそんなもんじゃないことぐらいわかる。
それでもあいつはそうゆうタイプだと無理に自分を納得させていた。
あいつが大きな企業の跡取りで、莫大な資産を保有してるなんて知らなかったけど、住んでるマンションや身の回りの物を見れば金持ちなのはわかった………
あいつにとって俺はただのペットだった。
あの晩、お前はお気に入りのペットを見つけた、金持ちの気まぐれ。
真剣な恋愛なんて求めていなかった。
考えてみればそうだよな、俺なんて親も兄弟も居ない天涯孤独の身で高校こそ出たものの、就職先なんてはなっから諦めてた。
ちゃんとした保証人も無く就職なんて無理だった。
始めて働いたのはコンビニの夜間バイトだったし、深夜営業の居酒屋だとか弁当屋とかお惣菜やなんてのもあった。
料理を作るのは嫌いじゃなかったし、仕事が終われば食事が出るのも魅力だった。
結局最後はバーのカウンターでシェイカーを振ってた。
そんな時あいつが店に来た、俺を一目見て一瞬立ち尽くしおもむろに口を開くと名前と歳を聞いた。
「紀部 碧 二十歳」
名前と歳を言うと次の日からお前は毎日店に来た。
欲しいものを見つけたお前は手に入れたくてたまらなかった……そうだろ?
カウンターに座って飲んで顔を見る。
どうしてなのか聞きたくなってもおかしくないと思う。
だから、あいつに聞いた。
「お客さん、俺の顔見に来てるんですか?」
「そうだよ」
「気に入りました?」
「あぁ、綺麗な顔だな………」
「そうですか?始めて言われましたけど、そんなこと」
「それはみんな見る目がないからでしょね」
「褒めていただいてありがとうございます。こんな顔でよければ毎晩でもどうぞ」
「碧恋人は?」
「いませんけど」
「今は一人暮らし?」
「今も昔もずっと……です」
「僕のところへ来ない?」
「僕のところ?」
「そう……君と一緒に住みたい」
「何ですかその誘い?」
「僕は君に一目ぼれしたんだ。だからよかったら一緒に住みたい」
「僕の事何も知らないのに、そんなこと言っていいんですか?危険な男かもしれませんよ」
「そうかな?僕は君が誰でも構わないよ」
「まっ、そんな話は他所でやってください。あなた程の人ならいくらでも見つかるでしょ」
「君でなければだめだと言ったら?」
「お断りします。好きでもない人と一緒に住む気も誰かに囲われる気もありませんから」
「残念です、でも僕は諦めません。毎晩来て口説き落としてみせます」
自分なんかにおかしなことを言うやつだと思った。
ただの冗談だろう……そう思ってた。
本気で口説きに来るなんて…………思ってもいなかった。
スーツも靴も時計も素人の俺が見てもわかるくらい良い物を身に着け、人並外れた容姿は誰もが二度見するほどだった、身長だって体型だって羨ましいと思うくらい完璧な男が本気で俺を欲しがった。
いつの間にか彼を待ちわびる自分が居た、好きになっていた。
手の届かない彼が欲しかった。
外で逢うこともデートらしいことも一度もなく、バカな俺は一緒に住むことを承諾していた。
勿論ただの同居じゃない事ぐらいは分かった。
それでもあいつは優しかった、無茶なことをいうわけでもなく嫌がることもしなかった。
本気で一目惚れされたと自惚れた………
最初のコメントを投稿しよう!