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蟻地獄
蟻地獄って知ってます?
放っておとくとどんどん埋まっていく底なしの沼。
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京輔の部屋に始めて足を踏み入れた日、持って行った荷物は全部捨てられた。
「今日からは私が全部用意する、それを身に着けてくれればいい」
決して逆らえない居丈高な物言いに、自分がこの人と対等ではないことを感じた。
「…………うん」
「君を私好みの男にしたいんだ、いいだろ?」
そして時折優しげに言う。
本当の彼はどっちなんだろう…………
「うん」
「碧は今日から私に相応しい極上の男になるんだ、いいね」
「はい」
「早速出かけよう」
着るものも身に着けるものも、靴も下着もすべて彼の買いそろえたものを身に着けた。
彼の好きなフレグランス、彼の好きな髪形、彼の好きなメガネ…………完成されていく人形はこれまでの自分とはかけ離れた自分だった。
彼が気に入ってくれるなら、好きだと思ってくれるなら………自分の好みなんて無くていい。
出来上がった人形を満足げに見る彼、愛し気な目で見られるだけで身体が震えた。
誰かに愛されたかった、愛されていると思いたかった。
自分が日増しに魅力的になっていくようで嬉しかった。
彼が満足し、食事や観劇や映画やショッピングに連れて行ってくれるのを心待ちにした。
部屋での食事を手作りすると意外なほど喜んでくれた。
嬉しそうな顔で残さず食べる彼に愛されていると実感した。
ベッドでも愛おしむように優しく愛撫し、決して無理強いをしなかった。
温かく大きな手で撫で廻されただけで、身体が震え始めての快感に身を捩った。
愛されることの喜びと、始めてのsexに酔いしれた。
男女の恋愛も未経験の自分が、彼の手管に翻弄され達かされ何度も絶頂を迎え、彼の楔を受け入れ我を忘れて歓喜した。
始めての行為に溺れるように夢中で彼の物を咥え、舐めしゃぶった。
彼が喜んでくれるなら…………それだけだった。
どれもこれも彼が俺に教えてくれた、淫靡な行為も目くるめくような快感も全部彼だから…………そう思っていた。
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