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プロローグ
天花爾 京輔の元を飛び出して半年、1ⅬDKのマンションと歩いて通えるcafe、その往復が今の碧の毎日。
現実離れした日常を離れ、振り返えればあの頃が如何に不自然だったかが分かる。
過去なんて過ぎてしまえばただの想い出になる事を自分は経験から知っている。
とんだ茶番に引っかかったと忘れてしまえばいい………
cafe《マノン》の開店は9時、遅刻は許されない。
今日は開店から夜のバーに交代する19時までのシフトだ、ランチの忙しさを思うと寝過ごしたなんて言ってられない。
碧は着替えるとすぐに部屋を出た。
マノンまでは歩いて15分、一番近い碧が開店の準備をすることになっている。
ドアのかぎを開け、準備中のプレートを下げる。
カウンターとテーブルを軽くふいて、コーヒーの準備をする。
マノンではコーヒーをペーパードリップで淹れる。
豆は中細挽きを使用、注いだお湯がじわじわとコーヒーの成分を抽出していく。
お湯を注ぐ微妙な手加減が味を決めるとオーナーの口癖だ。
9時15分前にオーナーの岩井 莉空が出勤、バイトの3人は11時出勤だ。
「碧、今日もよろしくな」
「莉空さん、コーヒー淹れていいですか?」
「おお、俺の分も頼む」
二人分のコーヒーをゆっくりと落としていく、いい香りが店内に広がって穏やかな幸せを感じる。
ビジネス街という事もあって、11時半を過ぎるとランチのお客が一斉に押し寄せる。
ランチはコーヒー付きで1500円、ビジネスマンにも好評の価格帯で提供している。
メニューを考えるのは俺の仕事で作るのも俺がやる、総菜屋とか弁当屋での経験がこんなところで役に立っている。
料理好き男子は今や人気の的だとバイトの由香ちゃんに煽てられて、オーナーから厨房を代わって、早3か月。
客足はますます増えている。
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