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「みんなに話がある」
翌日、雄二は高校に来なかった。担任が朝イチでそう切り出した時点で嫌な予感がした。
「早田雄二は亡くなった。どうやら『SLEEP』を服用したらしい。家族全員でだ」
クラスがざわついた。
「とうとうこのクラスから……」
誰かが呟いたがそれより衝撃だったのは担任が次に口にした言葉だ。
「『SLEEP』服用では二度と目覚めることはない。よって戦地にいる戦闘員の治療のために臓器も四肢も解体して利用される。みんなもくれぐれも『SLEEP』を使おうと思うなよ。……もう雄二はバラバラにされたそうだ……」
担任が嗚咽交じりに声を絞り出した。夢の中にいることさえも許されない。戦争に行きたくないと訴えるのは間違いじゃないはずなのに。
「でもさ」
女子の誰かが告げた。
「戦争で痛い思いや苦しい思いするよりずっと幸せだったんじゃないの? 私達は卒業したらみんな戦争行くんだ……」
誰も何も言わなかった。戦争なんて僕らが望んだものじゃないんだ。誰かが勝手にはじめたものなのに、僕らは命をかけなければならない。それもほぼ戦死確定の戦争だ。
テレビもネットも犠牲者の数を発表しない。戦争が始まって数年。この国の現在の四十歳以下の人口の割合はすでに1%を切っているとか。そのほとんどが戦死との噂だ。噂と言っても、兵役に向かった知人たちと再会できた者は一人としていない。言えないが見えているのだ。
「……先生からは何も言えない。とにかく授業に集中するんだ……」
担任はホームルームを終えて教室をあとにする。担任も息子を兵役にとられて戦死したとの噂だ。
そう。全てが噂だ。誰も本当のことは言えない。戦死者が出た家庭は遺族年金が出るとの話もあったが、それを受け取った人が存在する話もも聞かない。その上箝口令を破れば、即死刑との噂もある。
もう狂ってしまっているのだろう。やらなくていいこと。やめていいこと。何も得にならないこと。俺ら庶民にとって苦しみしか与えない戦争は確かに存在する。
SNSの友人たちも知らぬ間に消えていたり連絡が取れなくなっている。
三月までにどうするか決めなければならない。例えバラバラにされても雄二のように兵役が逃れたのは、勇気のある行為のはずだ。俺はお前を否定しないよ。誰かを打つよりならずっと人間らしいよ。
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