ねむる

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 優菜はまた小声で耳打ちをする。 「私、嫌になっちゃった。ねえ一緒に眠ろうよ」  ギリリと奥歯を噛んだ。 「考えさせてくれ」 「そう……。賢治は私のこと好きだと思っていたのに」  優菜はそのまま去っていく。何が正解か。今の状況では正解なんてないのだろう。ただ迷う時間は欲しい。そう思っていたのに翌日、更に異変があった。クラスメイトの三分の一が登校しなかった。朝のホームルームの担任は疲れた顔を見せた。 「どうしてこんなことに……」      『SLEEP』服用。臓器提供。四肢提供。雄二はこの状態の一番槍になったのだ。あの世で雄二は微笑んでいるだろうな。 「みんなも眠りたいと思うか? 先生が思うに多分『SLEEP』は仮死状態にするものか、脳死状態にするものだろう。それでも飲みたいと思うか?」  男子の一人がおずおずと手をあげた。 「戦死確定の僕らにとっては甘い誘いです。僕らに未来はありません。多分もっと増える」 「そうか……。だよな。実は今日、三年生の三分の一が『SLEEP』服用した。先生はもう止めない。……先生だって『SLEEP』を持っていたら息子に飲ませた……」  疲れた顔の担任。箝口令もどうでもいいらしい。そうだろう。担任は教え子を何人も戦地に見送ったのだろう。生きていても何にもなれない未来に何が意味があるのだろうか。  放課後。再び優菜が顔を出した。 「賢治決めた?」 「うん。その前に優菜はなんで俺に好かれていると思ったんだ?」 「分かるよ。自信なかったけど、雄二が教えてくれたもの」 「雄二だって優菜のことが……」 「それも聞いた。雄二が『SLEEP』飲んだ日に」 「場所変えようか」  俺と優菜は学校を出る。向かったのは河川敷。一緒に橋の下に隠れた。 「雄二ね、一緒に『SLEEP』飲まないかって誘ってきたんだ」 「その時に?」 「うん。断ってさ。だったら賢治と一緒に眠ってくれって」  優菜の目からボロボロと涙が溢れた。 「死んじゃうなんて思わないじゃん……。眠るだけならいつか目覚めるかもって思うじゃん。お葬式で顔見ることすらできないんだよ? 私達、一体何のために生まれたの?」  橋の上から車の音が聞こえてくる。この音が止んだら決める。  音が止んで秋の風が俺らを包む。俺は優菜を抱き締める。 「優菜、好きだ。だから俺は一緒に優菜と眠る」 「うん……」  しばらくそのままでいると優菜はすすり泣く。 「一つは送られてきたけど、一つは雄二がくれたんだ。他の家のポストから盗んだって。雄二でも賢治でも、私は普通に恋してみたかった。告白しても死ぬか眠るかなんてバカげてるよね」  優菜は俺の唇に唇を重ねる。そのまま俺の手に何かを握らせる。  唇が離されて優菜は笑った。今まで見てきた優菜の中で一番妖艶で無邪気な笑顔だった。 「意識を失うまで、ちゃんと手を握ってて」  俺の手のひらに錠剤。優菜もその錠剤を見せる。 「一緒にね」  タイミングを合わせて『SLEEP』を飲む。
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