そうだ、仕事へ行こう

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そうだ、仕事へ行こう

そうだ、仕事へ行こう。 赤木良太郎(あかぎ・りょうたろう)は思った。 定年退職してから、清掃会社でアルバイトをしているのだ。 俺が行かんと、社長も困っとるかもしれん。 そうと決まったら準備だ。 「おい、母さん。仕事に行くで、着替え出してくれ」 「は?」 「バケツとブラシはあるか?」 「お父さん、何言ってんの?」 「掃除に行かんと、社長も困っとるだろう」 「社長さんは、亡くなったわよ」 妻の秀子(ひでこ)は何を言っているのだろう。 「そんなの聞いとらん」 「もうだいぶ昔の話よ」 一体どうなっているのだろう? 「お前の言うことは訳がわからん! 俺が見てくる! 車の鍵を貸せ!」 「鍵はここにはないわ。免許も返したわよ」 「返した!? なんで、俺に黙って勝手にそんなことをするんだ!」 妻と話していても、埒があかない。良太郎は自分で確かめに行くことにした。 玄関に向かって廊下を歩いていると、2階から見慣れた女が降りて、良太郎の前に立ちはだかる。 「良太郎さん、今からお出かけ?」 「おい、退け! 俺は行くんだ!」 「良太郎さん、どこ行くの?」 嫁の菜摘(なつみ)は、のんびりと言いながら体全体で廊下を塞いでいる。 なんて邪魔なんだろう。早く行かなければならないというのに。 「なっちゃん、お父さんは今から仕事に行くんですって」 秀子が、余計なことを菜摘に報告した。 「あ、そうなん? 今日は日曜日。それにもう、夕方だよ。 雨も降ってるし、とりあえず会社に確認するから居間に戻って待っててよ」 嫁は勝手なことを言う。 なんで、俺の邪魔ばかりするんだ。
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