3人が本棚に入れています
本棚に追加
終業式の日は、いつもより早く下校できた。私は重くなる気持ちから目を背けて、図書館へと向かう。
今朝、テレビで梅雨明けのニュースを見た。もしかしたら、今日が美乃梨と会う最後の日になるのかもしれない。
図書館のロビーを横切り、いつも通り飲食スペースに足を踏み入れる。
「あれ……?」
何度か視線を往復させたものの、そこに美乃梨の姿はなかった。
今までだって、毎日会えていたわけじゃない。なのに、どうしてだろう。これからずっと、彼女に会えなくなるんじゃないかって思えてきて、すごく不安で泣きたくなった。
長居する気にはなれなくて、私は飲食スペースを後にした。駅前のコンビニで昼食を買っていたけれど、家で食べることにしよう……。
カウンターで本を返して、次に借りる本を選ぶ。いつもなら、ワクワクする楽しい時間のはずなのに、今日はあまり身が入らない。
ため息を吐いてから、傍の棚から一冊抜き取る。表紙を眺めてみたものの、面白いかどうかが分からない。判断力が鈍っているようだ。
いいや、これで。どこか投げやりな気持ちで、私はカウンターへと向かった。借りた後は、真っ直ぐ出入口を目指す。美乃梨との記憶が残る図書館から、早く離れたかった。
蝉の声に包まれながら、葉を青々と茂らせる木々の下を俯いて歩いていると、
「あっ、愛奈!」
向こうから聞き慣れた声がして、私は驚いて顔を上げた。
「美乃梨……」
そこには、嬉しそうにこちらに駆け寄る美乃梨の姿があった。
「会えて良かったー! 愛奈は今日終業式?」
「えっ、うん……」
「私もだよ。でも、帰りに先生のお手伝いをしていたら、こっちに着くのが遅くなっちゃった」
そっか、そういう理由で遅くなったんだ。私ってば、何勘違いしちゃったんだろ……。安心したと同時に、涙が一粒、ぽろっと零れた。
「えっ、どうしたの?」
美乃梨が驚いて顔を覗き込んでくる。
「ごめん、大丈夫……」
そうは言ったけれど、涙が後から後から溢れてきて、止まりそうにない。
美乃梨は「ちょっと座ろう」と私の肩を抱いて、近くのベンチに連れていってくれた。
「具合悪いの? それとも何かあった?」
心配そうな美乃梨の顔を見ていたら、ただ泣いているだけじゃダメだと思えてきた。私は手の甲で涙を拭うと、しゃくり上げながら言葉を探す。
「さっき、図書館に来た時、美乃梨がいなかったから……」
「うん」
「だから、もう二度と会えないんじゃないかって、思って」
「えっ、何で?」
私は美乃梨の大きな目を真っ直ぐに見て言った。
「美乃梨の頭痛が治ったら、もう図書館で休まなくてもいいでしょ? 私が薬をあげる必要もない。だから、来なくたって、」
「どうしてそんなこと言うの?」
私の言葉を遮って、美乃梨が泣きそうな声を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!