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「美乃梨?」
真剣な瞳で、美乃梨が訴える。
「愛奈は勘違いしてる。確かに、鎮痛剤のおかげで頭痛は良くなったよ。だけど、私が一番救われたのは、愛奈が傍にいてくれたことだったのに」
「え……」
「薬だけ渡して、立ち去ることもできたよね? でも、愛奈はずっと一緒にいてくれた。その温かさが、すごく心に沁みたんだよ……それで私は、この優しい子と友達になりたいって、思ったんだ」
いつの間にか、美乃梨も涙声になっていた。私の目も涙の厚い膜に覆われて、何も見えなくなる。
美乃梨は息を吐いてから、きっぱりと言った。
「だから、これからもずっと友達だよ」
「うん……ずっと、友達」
私も強く頷いた。その弾みで、目から涙がぽとぽとと落ちていく。開けた視界の中で、美乃梨は目と鼻を赤くしながら、優しく微笑んでいた。
夏休みに入った今も、私は図書館へ行って美乃梨と会っている。自習室で宿題を教えてもらい、飲食スペースでお喋りしたり、本を見て回ったり。
ようやく連絡先を交換したので、事前の約束もできるようになった。連絡先を聞こうにも聞けなかったのは、美乃梨も同じだったみたい。お互い、他校の友達ができたのが初めてで、距離感が掴めなかっただけだったのだ。
私が生まれて初めて真剣に勉強しているので、両親が夏休み中も定期代を出してくれることになった。なので、結構な頻度で図書館へ通えている。
今日は十二時に美乃梨と待ち合わせて、飲食スペースで一緒に昼食をとっているところだ。
「そうだ、愛奈に報告したいことがあってさ」
コンビニのサンドイッチ片手に、美乃梨が笑顔を見せる。
「どうしたの?」
「お母さんに相談して、今度、病院で診てもらうことになったんだ……頭痛のことで」
「あっ、そうなんだ。良かったね!」
私はホッと胸を撫で下ろした。梅雨が明けて、美乃梨の頭痛は治まってはいたものの、このまま放置しても良いのか不安だったのだ。
美乃梨が自分の頭を軽く撫でながら話す。
「今年は頭痛が酷かったから、お母さんも私が体調悪いのに気付いてたみたい。夏バテしてるのか聞かれたから、正直に答えたんだ。頭痛で悩んでるって」
「そうだったんだ……」
視線を私の瞳に移して、美乃梨が柔らかく微笑んだ。
「この前、愛奈と泣いちゃった時ね、思ったんだ。つらいことを我慢しちゃいけないって。自分を大事にしてくれる人に、素直に伝えた方がいいってね」
「美乃梨……」
あの時の自分を思い出すと、恥ずかしくなっちゃうけど……でも、美乃梨の役に立てたのなら、それで良かったんだよね。
ペットボトルのお茶で喉を潤してから、私は話題を変えた。
「ねえ、今度私の家に遊びに来ない? 友達に宿題を教えてもらってるって言ったら、お母さんが連れて来なさいって。お礼にパウンドケーキを焼くって張り切ってるの」
「本当? 愛奈の家、行ってみたいな」
目を輝かせる美乃梨に、こっちも嬉しい気持ちになった。
窓の外は今日も鮮やかな青空の下、眩い光に満ちた世界が広がっている。
きっと今年の夏は、彩り豊かな楽しいものになるだろう。そんな予感がした。
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