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ココロサプリ
平日の放課後、区立図書館に来ると、いつもちょっと安心する。学生から社会人、親子連れから年配の人まで、様々な年齢や立場の人が、等しく本を求めてやってくるからだ。共通の目的で集まってきて、それなのに決して群れない。そんな集団が、私には居心地が良かった。
私の通う図書館は結構大きくて、閲覧室や自習室の他に飲食スペースもある。最寄り駅のコンビニでお菓子と飲み物を買って、そこから徒歩五分の図書館の飲食スペースで食べて、それからゆっくり本を見て回るというのが、私の定番の放課後コースとなっていた。
空をどんよりとした厚い雲が覆う今日も、梅雨の蒸し暑さにうんざりしながら、私は図書館へとやってきた。館内に入るとひんやりとした冷気を感じ、ほっと息を吐く。夏場の図書館ほど、涼むのに最適な場所もないだろう。タダだし。
いつも通りに飲食スペースへと赴き、今や定位置となっている窓際の一番後ろの席に着く。ペットボトルを取り出して、ピンク色のビタミンウォーターをがぶ飲みしていたら、斜め前の席に座っている人が目に入った。
十六歳の私と同い年くらいの女の子だった。セミロングの綺麗な黒髪をハーフアップにしている。私が着ているものとは違うセーラー服は、後ろ襟の両端に校章の刺繍が施されていた。私の通う高校よりもずっと頭の良い、有名私立女子校の制服だ。確か、ここから歩いて行ける距離にあったっけ。
そんな真面目そうな見た目の子が、頭を抱えて机に突っ伏している。具合が悪いのだろうか。心配になった私は、勇気を出して話し掛けてみることにした。飲食スペースは会話OKなので、誰かに咎められることはないだろう。
「あの、大丈夫ですか?」
席を立って、そっと声を掛けると、女の子はちょっとだけ顔を上げた。つらそうに顔をしかめながら、小さな声でぼそっと言う。
「頭が痛くて……」
「あ、それなら私、鎮痛剤持ってます」
私は自分の席に戻ると、リュックからポーチを取り出した。たまに生理痛が酷い時があるので、病院で処方された鎮痛剤を持ち歩いているのだ。
「何か食べてからの方がいいんだけど……」
そう言って、身体を起こした女の子に渡すと、
「大丈夫、さっきパンを食べたから。どうもありがとう」
彼女はそっと受け取って、スクールバッグからミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。女の子が鎮痛剤を飲んでいる間に、私は彼女の隣の席に移動した。薬が効くまでにはちょっと時間が掛かるから、それまで傍にいようと思ったのだ。
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