一回でいいんです

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チリリン、チリリン、 「キャハッ」 「いや~ん」 「「ギャハハハ」」 突然のことだった。 けたたましい自転車のベルの音と通りすぎて行った二人の女子中学生。 今日の実習内容を入力するのに夢中だった俺は、二人が接近にはまったく気づいていなかった。 でも相手からすれば、手元ばかり見ていて動かない俺を遠くのほうから捉えていて、おちょくりを入れてきたわけだ。 びっくりドッキリさせるのにベルを使うなんて。 悔しいことに俺、アイツらのご希望通りの顔を晒してしまったと思う。 片方の子が披露してくれた振り返り際の小悪魔的なスマイルが、思いっ切り! 俺の癇に障った。 二人は緩いカーブの坂道を気持ちよさげに下って行って、視界からは完全に消えてしまった。 『安全第一』って書かれていそうなヘルメットがマジでお似合いだったよ! まったく、それだから田舎なんだ。 いや、俺は好きだよ、田舎。 今朝来るときに見かけたログハウスに思わず見とれたり、じっさいにここは、都会へは通勤圏内の、いわゆる〝プチ田舎〟ってやつで、俺も憧れてしまうような場所だ。 子どもたちはここで、のびのびと育っていくのもよしだと思う。 俺は都会育ちで自転車ゲリラはしたことがないが、ピンポンダッシュならばわかる。のびのび主義には欠かせない要素だよな。 だから次、俺が対峙できる場面があったら、大人の余裕で中学生のレベルに合わせて相手をしてやる。 指鉄砲で狙って「バキューン」のノリでいこう。 なにせこっちは今日から3週間の実習で、そこの施設に通う予定だ。高確率で、またあの二人組に遭遇する気がする。 しかし、なんなんだ、「いや~ん」って。 削がれてしまった俺の集中力は悲しいことに、そう簡単には復活しそうになかった。 恨めしいその下り坂をそのまま睨みつけていたら、ちょうど反対車線をバスが上って来て、スピードを落としながら、たらたらと近づいて来た。 『九里能(くりのう)ダム』と表示されたバスだ。 俺のいる所から10メートルくらい進んで留まった先には対になるバス停があり、客を降ろしたようだ。 あれが終点で折り返して来るのか知らないが、俺を乗せてくれるのは『飯名駅』行きのバスになる。 アイパッチーはその中でもできるんだ。 時刻表によると、こちら側へバスが来るまであと15分だ。
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