一回でいいんです

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一回でいいんです

実習初日の緊張感が抜けたのは、帰りのバス停でようやくひとりになったあとだった。 ゴールデンウイークも明けた田舎の風景。 山の稜線を両脇にゆったり望み、真ん中にあるのはバス通りに沿って並ぶ、古い家屋とよく耕された畑、そして、ひときわ目立つ4階建ての俺の実習先だ。 たっぷりと残る午後の日差しは、人っ子ひとりいない静止画像のようなこの場所を、さらにのどかにしている。 きっと、地元民以外で今いる余所者は、俺だけだと思う。 バス停にあるのはどこか郷愁を誘う年季の入った木製ベンチ。俺は座ってバスを待つあいだ、さっそく今日の習得内容のまとめにかかる。 仲間の車には便乗しなかったのは、そのためだ。 同じグループの奴らには 「30分に一本のバスで帰るなんて」 「実習の日にバイトを入れるなんて」 などと言われ、呆れられてしまった。 もの好きな変人として扱われることが多いが、 俺はバイトと実習の両立は、じゅうぶん可能だと思う。 俺にはスーパー便利な強い味方〝アイパッチー〟があるのだ。 コイツで移動時間に明日に向けての目標までやってしまえば、あとは、夜の8時からの居酒屋バイトに行くだけだ。 時間の有効活用。 どうせ奴らはみんなでメシを食いながら、ワチャワチャと時間ばかりかけてやるのだろう。 俺はマイ・ウエイ。 ひとりがいい。
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