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高林は春山に愛を囁く。
目の前の高林君を見詰める。いや、睨み付けると言った方が正しい。何故なら私は苛ついているから。彼の隣では巻野が唇を噛んでいた。重い雰囲気の私と巻野など意に介さず、ですからぁ、と高林君は大声をあげた。その酔い方からして気に入らない。
「春山先輩、デートして下さいよ」
「やだ」
即答する。巻野が溜め息を吐いた。私の大人気ない対応に呆れているのかな。でも嫌なものは嫌だ。はっきり断るべきだ。卒業以来、久々に訪れたサークル御用達の居酒屋で、一体何をしているのかとうんざりする。そんなこちらの内心など露知らず、どうしてですかぁ、と酔っ払いはしつこく粘る。
「そういうとこ、嫌」
「大丈夫ですよぉ、デートの時には素面ですからぁ。ちょっと、トイレへ行ってくるので、日程、決めておいて、下さい」
決めたところでこれだけ酔っていてはとても覚えていられまい。千鳥足の高林君は、ぶつかりそうになった店員さんに支えられながらトイレへ向かった。人様に迷惑をかけて、まったく。そうは言っても彼は男、私達二人は女。付き添うわけにも行かない。ごめんなさいね、店員さん。もし暴れたりしたらそいつの額をビール瓶でかち割って下さい。
レモンサワーを煽る。飲まなきゃやっていられない。すみません、と巻野が深々と頭を下げた。
「何に対してのすみません?」
「先輩に迷惑をかけてすみません。後輩の教育も祿に出来ておらず、申し訳ないです」
別に、と答えつつ鼻を鳴らす。
「いえ、後輩の不始末は先輩の責任です」
「そりゃそうだけど、巻野を責めるつもりはないよ。それに、高林君とやらはまだ学生でしょ。子供が騒いでいるなって思うだけ」
「でも先輩、滅茶苦茶苛ついているじゃないですか。態度に出ていますよ」
言われて自分を自覚する。腕組みをし、眉を寄せ、貧乏揺すりをしていた。流石に行儀が悪いので足を止める。しかしこれだけ苛つきを前面に出しているのによくデートへ誘えるな。今時の子は鈍いのか。それとも高林君が特別アホなのか。まあ私とは五歳しか離れていないけど、学生と社会人には埋められない隔たりがある。それが良いことか悪いことかは知らない。
「あ、ただ巻野さぁ。あの子がこんなんだって知っていた上で私を紹介した? それなら怒る」
私の指摘に愛すべき後輩は慌てて手を振った。ちょっとした仕草一つをとっても相変わらず可愛らしい。
「知らなかったです。むしろほとんど女子と会話をしない、大人しい部員でしたよ」
「君ら、三歳差だっけ」
「はい。私が四年の時、彼が入学してきました」
「じゃあ彼がお酒を飲んだところもこないだの会まで見た事無かったわけだ。君が今年就職したのだから、三つ下の彼は最近二十歳になったわけでしょ」
「うーん、まあその、はい」
言葉を濁した点には気付かないふりをする。大学生なんてそんなものだ。ともかく、とんでもない奴に見初められてしまった。やれやれ。
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