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ハルは車のハンドルを掴むと茅夜斗達が言い合ってる側を通り過ぎて行った。
「貴方が大学でアルバイトをするなんて珍しいですね。白桃大学でしたっけ?いったいどう言う風の吹き回しなんだか…明日は大雪でも降るんでしょうかね」
「うっさいなぁ。高校ん時の知り合いに頼まれたから仕方なく手伝いに行ってやっただけだよ」
『頼むよ〜シイナ〜!!1週間だけで良いから、なっ!?助手のピッピがインフルなっちゃったから今人手不足で俺マジ大変なんだって〜!この通りです、お願いします!助けて下さい!』
最初断ろうとしたのに夜中突然人の家に来たかつての同級生・財部に土下座までされてはさすがのシイナも断れなかった。だから仕方なく財部が働いている大学の芸術学科で絵画モデルをしている“ピッピ(性別・女。年齢・39歳)”の代わりに1週間だけ彼の授業で絶対衣服着用を条件に絵画モデルのアルバイトをする事になったのだ。
「あの学校女子大でしょう?噂では美人が多いと聞いてますが…良い人いらっしゃいました?」
「はぁ?僕何しに行ってると思ってんの?女漁りに毎朝眠い目こすりながら出向いてんじゃないんだよ」
「貴方ももう20歳でとっくに成人したんですから毎日静止画の女性と見つめ合ってないでそろそろ現実で恋人を作られたらどうですか?そのうち母さん達に見合い写真を持って来られて…」
「あ〜、超うっさい!愛だの恋だのそんなのどうでも良いっての!僕は毎日僕の芸術に触れられていればもうそれだけで充分満たされてるから恋人なんて必要ないね!!」
「シイナ、あのね…」
「まぁあんたには一生分からないだろうけどね。何も無い場所に何色もの色と言う音を重ねて世界でたったひとつだけの夢を創り出すの。その色は絶対に消える事のない永遠の世界で、朝にも夜にも眠る事を知らない満開の輝く花を咲かせてるんだよ。その世界は美しすぎるったらないよ。蔓がねこう屋根の上に赤い身をつけながらゆっくり壁を登ってくんだ、モーツァルトの交響曲第40番ト短調の音に乗せてね。そんでその身はいつか花びらを開いて羽根のように風に靡いてそしてようやく……」
弟が何を言ってるのか本当にさっぱり分からない…。シイナがにこにこしながら自分の芸術論をペラペラ語り始めたらもう誰にも止められない事をよく知ってるのでハルは黙って聞き流しながら車を走らせ続けた。
「………と言うわけなんだよ。どう?あんたに分かるの?」
「はいはい、分かりませんよ」
「ふんっ、でしょうね」シイナは鼻で笑うとスケッチブックを開いて鉛筆で何やら描き始めた。
「車酔いしますよ?」
「平気ー…」
夢中で何を描いているのやら…。真剣な顔で鉛筆を動かしているシイナをルームミラー越しにちらっと見てハルは小さく笑みを浮かべた。
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