会いに来たよ

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会いに来たよ

「行ってきます」  母は既に仕事に出ているから、私は誰も居ない玄関で出掛けの挨拶をする。  母一人。子一人。  母は仕事で居ない事が多いので、私は一人時間が長い。  だからと言って、「行ってきます」や「ただいま」を言わないのは、気持ちが悪い。    祖父との約束。  何を着て行こうか、迷った上で白いワンピースに決めた。  私の服の中で、一番大人びて見えるから。  おじいちゃんとおばあちゃんを驚かせたい。  おじいちゃんに会える。  おばあちゃんに会える。  この世の中で多分、母よりも私を愛してくれた人たち。  会いた過ぎて、興奮して昨夜はあまり眠れなかったくらいだ。    おじいちゃんには、部活は剣道部に入ったことを話そう。  宮本武蔵が好きなおじいちゃんは、きっと喜ぶ。  おばあちゃんには、きんぴらゴボウの作り方を教わろう  お母さんの味も、私の味もおばあちゃんのきんぴらゴボウの味ではないから。  ああ、それから何を話そうかな。  興奮で、ホテルに向かう足取りも軽く、早まる。  待ち合わせ場所のシルバースターホテルまでは、バスで3つ目の停留所。  時間通りに来たバスに乗り込む。  夏休みだからなのか、昼間だからなのか、バスはガラガラで貸し切り状態。  エアコンが効いている。バス停までの道のりを歩いて、火照った身体には心地良い。  バッグからボディシートを取り出し、汗ばんだ肌を拭く。  肌についたボディシートの水分が、エアコンの風で奪われる。気化熱。  あぁ、生き返る。死んでないけど。  ボディシートでさっぱりして、人心地つく頃には、バスはホテル前に到着した。  ゴクリ、と唾を飲み込んでから、バスを降りる。  あんなに早く着きたい、おじいちゃんとおばあちゃんに会いたいと思っていたのに、今は緊張でドキドキしている。  小心者だね、私。  家族なんだから、大丈夫だよ。  心の中で自分に話しかける。  ホテルのフロート板硝子に写った自分の姿を確認し、バスに座った時についたワンピースのシワをはたいて身なりを整えた。  ホテルの広い自動扉をが開く。  フロントに歩いて行くと、フロントのソファに座っていた祖父と祖母が笑顔で立ち上がり、手を振った。  背が高くスラリとして、姿勢もよくカッコいいおじいちゃん。   少しだけふっくらしているけれど、柔和な笑顔で優しいおばあちゃん。  二人とも元気そう。  大きく手を振って、小走りで祖父母に駆け寄った。
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