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おじいちゃんのこと
祖父は厳しい人だった。
いつだって居住まいを正している。
祖父がダラダラしている姿を見たことはなかった。
骨董品が好きで、刀剣や鍔、焼き物や漆器などの収集をしていた。
祖父が古美術などの収集のため、骨董品店や百貨店に行く時に、連れて行って貰うことがあった。
幼い私は直ぐに飽きてしまい、祖父から怒られた。
「小さい内から、本当に美しい物を見ることは大事な事なんだよ」
それでも飽きて不貞腐れた私に、祖父は百貨店専門店でチョコーレートやクッキーを買ってくれた。
百貨店で売っているチョコーレートやクッキーの缶はとても美しいと思った。
大事に抱えて持って買えると、家で待っている祖母が、お茶を用意してくれる。
祖父は、お気に入りのJAZZレコードをかけ、ブランデーグラスを取り出し、少しだけブランデーを注ぐ。
「レコードで聴くのがたまらないんだよ」
と言うのが祖父の口癖だった。
買ってきたチョコーレートの缶を開ける。
一粒チョコーレートの中から、アーモンドが載ったダークチョコーレートを選ぶ。
少し齧ったら、ブランデーを飲む。
祖父の美味しそうな顔。
「チョコーレートとブランデーは相性がいいんだよ」
祖母はオレンジピールの入ったチョコーレート、
私はホワイトチョコーレートを選んで、祖母の入れてくれた紅茶といただく。
祖母はストレート、私は牛乳たっぷりで。
「まったく、おじいさんは洋楽ばっかりで」
三味線が好きな祖母は、浪曲好きで洋楽好きの祖父とは音楽の趣味が合わなかったようだ。
よく、祖父のJAZZレコードをそんな風に言っていた。
「優空には、いい趣味をもってもらいたいからな」
祖父がそう言うと、祖母はふんっと鼻で笑った。
「なら、三味線の音だっていい音色ですよ。浪曲も捨てたものではありません」
当時の私は、JAZZも浪曲も好きではなかった。
母が買ってきてくれたお話音楽、「魔法使いと弟子」が好きだった。
お話の合間に音楽が入る。
それが子ども心にワクワクして。
でも、それを言うと二人をがっかりさせてしまうから言えなかった。
だからそんな時は、ニコニコ祖父母の話を聞いていた。
そうすると二人は私を手放しで褒めてくれる。
「この年で、こんなに芸術を分かる子はいない。優空は賢い子だ」
そう言って、祖父と祖母が代るがわる私をギュッと抱きしめてくれる。
父の居ない私にとって、祖父が父代わりだった。
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