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だから、聞いたんだってば
「優空ー、ただいまぁ」
母が仕事から帰って来た。
カレーの鍋を搔き回しながら、答える。
「お帰りなさーい、お母さん。また、だけど。カレーできてるよー」
「知ってるー。家に入ったとたんにカレーの良い香りがしてるもの」
おじいちゃんとおばあちゃんと話してから、私は自分の気持ちと向き合う事ができた。
お盆の間は部活はない。
バイトも入れず、家事に専念した。
今日も、母の好きな夏野菜のカレーと冷製ポトフ。
夕食の準備をしながら、母に尋ねる。
「ねえ、お母さん。私に話があるんでしょ」
お母さんはハッと、した顔になる。
「優空。あなた……」
「口を開けばお小言ばかりで肝心な事言わないんだから。おじいちゃんやおばあちゃんも心配してたよ」
「え?」
驚く母に、祖父母と会った事を話した。
途端に笑い出す母。
「いやぁね、優空ったら。高校生になっても夢想家さんで。あなた、おじいちゃんおばあちゃん子だったものね。きっとおじいちゃんおばあちゃん、喜ぶわ」
「島田さん。島田瑛祐さん」
突然口にした名前に母が驚いた。
「優空?あなた、何で知って……」
「だから、言ったでしょ。おじいちゃんとおばあちゃんと話して、聞いたんだってば。おじいちゃん、島田さんに会いに行って確かめたって言ってたよ。真面目で誠実な男のようだ、って。お母さんが選んだ人なんだから、優愛も信じてやれって」
母の目から涙が溢れる。
「おばあちゃんもね、言ってた。一人でよく優空を素敵なお嬢さんに育てたわね、って。優空ももう大きくなったんだから、これからはあなたが幸せになりなさいって。それがお母さんと優空の幸せよって」
「お父さん、お母さん……」
子どものように泣く母。
母の涙を初めて見た気がした。
「不思議な事があるものね。二人が亡くなって6年も経つのに」
落ち着いてから、ポツリポツリと話し合った。
おじいちゃんから電話があったこと。
実在しないシルバースターホテルに行ったこと。
不思議なのに、不思議とも思わなかったこと。
二人が元気そうに変わらず、愛してくれていたこと。
二人から、母の恋人について聞いたこと。
「そうねぇ。仏壇に相談してたからかしら。やぁね、恥ずかしい。私より先に娘に話さないで欲しいわ、お父さんたち」
そう言って母が笑う。
私は、用意していた小さな花束を母に渡した。
「結婚を前提につき合って欲しいって言われたんでしょ、おめでとう、お母さん」
「まだ、決めた訳じゃないわ。あなたの気持ちも聞いていないし」
「そんなの!花束用意してる時点で、賛成してるに決まってるじゃない。」
おじいちゃん、おばあちゃん。
見てる?
これで、いいんだよね。
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