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「……正解だ」
「やったー!」
お父様の言葉に大井さんが万歳をしてみせる。
思わず飯田さんに抱きつきそうになってから、大井さんは慌てて下を向いた。
「ふっくらとしたお米の甘さ。焼き上がりの香ばしさは、炭火焼きかな、と思いました。そしてお米の味を最大限に引き出す滋味深い醤油ダレは、大井米菓さん秘伝のものですね」
「むむう……」
お父様は再び腕を組んでみせる。
「大井米菓さんの手焼き煎餅は、楓月さんからよくいただいてましたから」
嬉しそうに見つめ合う二人。
お父様はそれを見て小さくため息をついた。
「だども、おめの次の代はどうすんだ?」
「その頃には家族経営では回っていかないぐらい大きな会社にしてみせるよ。何てったって僕は総格大大吉を持ってるからね。それに裕斗の職運大吉もあるし」
「里美ちゃんとこには男の子二人いるし……」
お母様はもう納得しているのか、助け舟を出してくれる。
お父様は腕を組みながら再び大きく息を吐く。
「……時代なのかもしんねえな」
お父様の言葉に、大井さんは目を輝かせてみせる。
「えっ? てゆうことは裕斗との仲を認めてくれるってこと?」
「言っておくが、大井米菓の次期社長は楓月だ。おめには会社はやらねえぞ」
そう言ってお父様は飯田さんを睨みつける。
「もちろんです。私は全力で楓月さんをサポートいたします。ありがとうございます!」
若い二人は揃って頭を下げてみせた。
「だども、一つだけ条件がある」
そう言ってお父様が見たのは、何故か私の顔だった。
「嫌じゃ、嫌じゃ!」
「ちょっと相談させてください」そう言って広い廊下に出た私達の前で、カピパラ様は小さな足をジタバタさせてみせる。
「さっき出してもらったミルフィーユ、美味しそうだったよね。帰りお土産にも買って帰ろうかと思ったんだけど、大井さんのお母様に場所を教えてもらわなきゃ、買えないなー。多分お父様のご機嫌損ねちゃったら、もうそんなこと訊けないよなぁ」
そう言って私は和室の方へ目を向ける。
「煎餅もメッチャ美味かったぞ」
飯田さんの言葉にカピパラ様の小さな口からカピ液が滴り落ちる。
「今回の件が上手くいったら、ウチの煎餅はいくらでも送ってあげるよ」
「あの煎餅がいつでも食える、ということか?」
カピパラ様の小さな黒い目がキラリと輝く。
「もちろん。今日も好きなだけ持って帰って良いよ」
カピパラ様がふーっとため息をついてみせると、カピ液がフローリングの上に飛び散った。
「まあ仕方ない。やってやらんこともない」
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