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チャッポーン。
扉の向こう側からは、何だか脱力するような呑気な音が聞こえてくる。
木製の扉に耳をつけると、聞こえてくるのは、お父様の間延びしたような声だ。
「……いとしげらねー。カピバラと風呂に入れるなんて夢みてえだ」
「カピバラじゃなくてカピパラだと言っているじゃろうが!」
「ユズがねくて残念だぁ」
「うわぁ! やめろ! おまえのアソコが足に当たっておるぞ!」
「……父さんがあんなにカピバラ好きだとは知らなかったよ」
大井さんが呆れたように振り返ると、お母様がそれに答える。
「子供の頃近所のふれ合い動物園に良く連れて行かれたの覚えてないの?」
「良く行ってたのは覚えてるけど……。父さんは撫でたりせず、じっと見てるだけだったよ」
「あの人、見栄っ張りだからね。今じゃ年パス買って一人で通ってるわよ。デレっデレの顔で」
お母様はおかしそうにふふっと笑った。
「まあ、あれだな。現状、同性婚という制度はまだない訳だが。それでも本人達が良いと言うのであれば……」
ほんのり上気した頬を艶々と輝かせながらお父様はボソリと呟く。
その言葉に、イケメン二人は揃って頭を下げてみせた。
『ありがとうございます!』
「それよか……。この占いとやらは時々やってもらえるんか?」
口の周りをカスタードクリームだらけにしてミルフィーユにかぶりついているカピパラ様に、お父様はデレデレの視線を送る。
「もちろんです! 定期的に出張占いとしてお伺いさせていただきます!」
私は背筋をピッと伸ばすと、心の中でガッツポーズを作りながら営業用の笑顔を浮かべてみせた。
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