総格39大吉、家運34大凶の女、店を出す

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「それにしても、何で結婚相談所? 占いは昔から好きだったからわかるけど」 「私の失敗を皆様の婚活に活かしたいの」  私の言葉に仁美は驚いた顔をしてみせる。 「なんて……。本当は、少ない元手で特に資格もない30過ぎの女が始められるからかな……」  私が参加した『総合結婚相談所連合会』のセミナーでは、男女の出会いが少なくなったと言われる昨今、結婚は大きなビジネスチャンスだ、と説明された。  そして、私が実店舗にこだわったのは、占いの店を併設したかったからだ。 「私が占いの基本にしているのは、姓名判断の運気なの」  仁美は大きく頷いてみせる。 「結婚相談所っていうのは、身分証明書を提出するでしょ?」 「ああ、そうか、身元がはっきりした人じゃないと紹介できないもんね」 「本名がわかると占いに使えるし、お見合い相手を選ぶのにも占いの結果が役立つの。つまり一挙両得って訳」  まあ、一番の理由は占い業だけでは利益を上げられないからなんだけど……。 「あくどいなー」 「賢いと言ってよ」  姓名判断は芸名やペンネームでも占うことができる。  ただ、その名前が本人により馴染んでいる方が、正確に占うことができるのだ。  私が元夫の柳田姓、家運31画大大吉を活かせなかったのもその為なんだろう。  結婚期間は大体2年あったけれど、他の人から「柳田さん」と呼ばれてもなかなか自分のことだと思えずに終わってしまった。  いつまでも田所姓の家運34画大凶を引きずっていた、ということなんだろう。  でも、田所優香の名前は、晩年に大きく影響が出てくると言われる総格大吉を持っている。  逆境に強く、出世すると言われている39画だ。 「あ、それ、水晶玉ってやつ?」  仁美が私の手元に置いていた水晶玉を指差してそう言った。   「そう、いかにも占い、って感じでしょ?」 「その中に未来の映像とかが見えたりするの?」 「ううん。私はあんまり霊感の強い方じゃないから、本来ないものは見えないの」  でも、一回だけ見えたような気がする。  あの時だけ……。 「えっ、じゃあ、それって見せかけだけ? 詐欺じゃないの?」 「失礼な。姓名判断って色々な項目があるんだよ。先ずは、五格分類法によって、天格・人格・地格・外格・総格を見るの」  メモ用紙に田所優香の名前を書き、その脇にそれぞれの画数を書いてゆく。*(姓名判断に用いられる「五格分類法」の説明は次ページにあります) 「私が所属している『鬼天竺(おにてんじく)式』で職運と呼んでいる仕事運、家運と呼んでいる家庭運。その他に、天格・人格・地格を木・火・土・金・水に当てはめて考える五行・三才配置、陰陽配列、生年月日を使う占い方もあるの」 「ひい、もう何が何だかわかんない」 「でしょ? それだけあると、全部が良いってことは先ずないし、相反する占い結果が出る時もある」 「えっ、それじゃ、姓名判断は当たらないってこと?」 「ううん。そこからが占い師の出番なんだよ」  私は直径6㎝ほどの水晶玉を見つめる。 「『鬼天竺式』では、姓名判断の画数の持つ運気は、過去生きてきた人々の膨大な量のデータの積み重ねと考えているの。その画数を持つ人がどのような傾向があるか、ということ。だから絶対変えられない運命なんてないし、たとえ大凶だったとしても、気を付けなければならない事柄さえわかれば、運気を上向きにもっていくこともできるの」 「じゃあ、当たる当たらないってよりも、どうやって良い方向にもっていくか、ってこと?」 「そうそう。そこで私は水晶玉の力を借りるの。その力で集中力を高めて、占い結果の中から何が最も重要で、依頼主にどう伝えたら良いのかを導き出す」 「へえ、こんな小さな玉にそんな力があるんだ」  仁美が水晶玉を覗き込むと、絹のような髪が肩からサラリとこぼれ落ちた。  私と同い年で、二人の子持ちの筈なのに、仁美は変わらず美しい。  それはきっと家庭円満で幸せだからなんだろう……。    なんて……。ついそんなことを思ってしまうのは、お一人様になってしまった自分自身に、卑屈になっているところがまだどこかに残っているからなのかもしれない……。 「あー、そろそろ子供達が帰ってくる頃だわ」  仁美はスマホの画面を確認すると、立ち上がる。 「じゃあ、また来るね。店長さん、頑張ってね」 「ありがとう」  私は仁美に手を振ってみせると、再び水晶玉を手に取った。
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