30人が本棚に入れています
本棚に追加
あれから何度も水晶を覗いてみるけれど、タワシが視えたことはない。
やっぱりあれは悪運の啓示だったのかな……。
私は水晶をカウンターの上に置くと、静かに手をかざす。
明日の開店。
新しい仕事。
色々と上手くいくだろうか……。
こんなに漠然とした占いをしたことはなかったけれど、何となく水晶の力を借りたいと思った。
今までと変わりなく、ただ室内の灯りを返している球体の表面を優しく撫でていく。
逆さに歪んで映って見える店内。
新しく買った白木調の椅子に、真っ白な壁。
開け放った出入り口の向こうに見えるのは、見慣れた『rarat』のフロア。
動いて見えるのは、フロアを歩く人々の姿だろう。
いや、違うな……。
何か茶色いものが真ん中辺りでモヤモヤしているように見える。
それは茶色い繊維状のものに覆われていて……。
タワシ、とも違う。
下に向かって4本突き出ているものは、短い手足……。
大きな鼻と小さな耳。
クリクリとした黒い目がこちらを見つめている。
それは、硬そうな毛の生えた生き物で……。
一番似ているものは……。
私がそう思った瞬間、辺りは眩い光に包まれる。
その眩しさに思わず目を閉じると、どこからか可愛らしい声が響いた。
「カッピーン!」
最初のコメントを投稿しよう!