俺とメイドさん

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 月明りが照らす闇夜の帳が降りる、崩れかけた城の最上階、魔王の間。壁はその殆どが壊され、天井も激しい戦闘の余波を受け、とうに吹き飛ばされてしまっている。 こちらが振るう剣と、相手の放つ魔法がぶつかり合い、周囲に轟音が鳴り響き、そしてまた大地が大きく揺らぐ。  人外レベルにして圧倒的な力を持つ者同士、その命を賭けた戦いは、まさに三日三晩続いた。全ての力を出し切り、どちらからとも無く地へと倒れ込む。 暫しの沈黙の後、先に立ち上がったのは―― 「――って言うのが、人々が求める勇者と魔王の戦いなんだろうな」 「それで、魔王を下した勇者が人々から疎まれる、と。……結局行き過ぎた力と言うのは、誰かを幸せにすることは出来ぬのじゃな」  我らが住まい、その一室。ダイニングにて。今日も今日とて、我が家と俺達が住む村は平和そのものだ。メイドさんが作ってくれた料理に舌鼓を打ちながら、小話に花を咲かせている。  俺の対面に座って話を聞いているのは、俺のメイドさんだ。村を囲む巨大な森林の中、気を失って倒れていた彼女を俺の師匠が見付けて、この村まで連れて来た。 尊大な物言いと可憐な姿をしたこの少女は、六年前に出会った時からその姿を変えていない。  魔族。記憶の殆どを失っていた彼女は、自らの種族をそう語った。エルフの様な長い耳が特徴的な、非常に長命な種族である。
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