呪われし焔

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 彼はシード権を持っており、その為ここであたしと相対するまで、背負った巨大な諸刃の剣を一度も抜いていない。彼が放つ威圧感に、あたしは思わず生唾を飲み込む。 「第一回異種武術大会の開催以降、彼は初代チャンピオンの座に輝いてから今日この時まで、一度もその背を地に着けておりません!」  ゆっくりと、しかし力強く武舞台まで歩いて来る大男。右目には痛々しい刀傷があり、左の頬にも古い切り傷がある。左肩だけを覆う金属製らしき肩当と胸当て、下半身には脛当て以外に防具を身に着けていない。  しかし遠目からでも分かる程に、彼にはそれでも充分過ぎる物だと感じさせた。ああして歩いて来ているだけなのに、一切の隙が無い。……間違いない、彼は強いのだ。  少しの時間が経ち、男はあたしと対峙する。背丈は優にあたしを超え、まるで獰猛な大熊でも相手にしているかの様だ。 「さあ、両者が相対しました。決勝戦を始める前にチャンピオン、一言お願い出来ますでしょうか⁉」  試合開始のゴングを鳴らす前に、レフェリーであるバニーガールがチャンピオンへとマイクを向けた。持ち手の先端に楕円状の金属が取り付けられたそれは、口を近付けて声を発することで、その放たれた声が何倍もの大きさになって周りに伝潘する魔法が掛けられている。 「……どの様な相手が私に挑もうと、私はいつも通りに叩き潰すだけだ。――安心しろ、殺しはしない」 「……そんなえげつない得物を引っ提げて、随分と紳士的な発言をするんですね。あたしも、負けるつもりは無いですよ」
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